
このたび、リン・トラス著/玉木亨訳『図書館司書と不死の猫』文庫版が刊行されました。よく本を読み、よくしゃべり、よく生き返る猫の物語です。

帯を外すとこうなります。目を離した隙に「ぬらり」と這い出してきそうなキュートな黒猫は、Yoshifumiさまに描き下ろしていただきました。「この画家さんの猫、いいよ」と編集部長(猫と育ち、猫と生きている)におすすめされて、装画をお願いした次第です。デザイナーは藤田知子さま。猫のポーズや本の積み方など細部にまでご意見をくださり、素敵な装幀に仕上げていただきました。
そんな本書のあらすじは以下のとおり。
図書館を定年退職したばかりのわたしに届いた、不思議な猫についてのメール。なぜか人の言葉をしゃべるその猫は、死ぬたびに生き返る数奇な半生を送ってきたそうで――。本を愛する不死の猫と、その周囲で起こる不可解な事件。好奇心をくすぐられ、調査を始めたわたしを待ち受ける意外な展開とは? 元・図書館司書と謎めいた猫が織りなす、ブラックで奇妙で、なのに心躍る物語。訳者あとがき=玉木亨/解説=金原瑞人
猫にまつわる物語は数あれど、本書の猫はとびきり異彩を放っています。「本を読み」「言葉をしゃべり」「何度でも生き返る」ことが設定にとどまらず、セリフの端々から本当に何十年も本を読んできたような貫禄が感じられるのです。たとえば猫が出自を語るシーン。
「わたしが生まれたのは1927年、ロンドンのイースト・エンドだ。ローマン・ロードの市場のそば。母はとても美しく、とても若かった。わたしは父を知らないが、それは猫の世界ではきわめてあたりまえのことなので、その点を深読みしようとしても無駄だ。」(36頁)
ひと筋縄ではいかない猫に引っ張られるように、物語はひねくれ、予想外の方向へと突き進んでいきます。巻き込まれるのが元・図書館司書の「わたし」。妻を亡くしたばかりの彼は、猫の正体を調べながら、生と死の在り方について深く考えます。猫と司書、両名の死生観を読み比べてみるのも楽しいのです。
巻末には著者からの注釈、玉木亨先生による訳者あとがきに加え、文庫版で新たに金原瑞人先生の解説が付されています。ファンタジーともホラーとも括りきれない本書の奔放な魅力を、丁寧に拾い上げていただきました。
どこから読んでも本と猫への愛(!)に満ちた一冊、ぜひお手にとっていただければ幸いです。

東京創元社公式キャラクター:くらり
よく本を読み、よくしゃべる猫。
よく生き返るかは不明。