いまから5年前、第27回鮎川哲也賞の選考は激戦でした。今村昌弘さんの『屍人荘の殺人』の、その後のブームと活躍ぶりはミステリファンだけでなく、出版界でも話題となったことは記憶にも新しいかと思います。優秀賞となった、一本木透さんの『だから殺せなかった』もスマッシュヒットを飛ばし、今年1月にはWOWOWにてドラマ化、好評を博しました。この2作品に次ぐ評価をいただいていたのが、戸田義長さんのデビュー作『恋牡丹』でした。姉妹編の『雪旅籠』とともに、同心親子の活躍する渋い連作ミステリとして、時代小説好きからも評判となりました。
 
 さて、今作『虹の涯(はて)』は、水戸藩・天狗党の藤田小四郎を主人公とした、さらに骨太なミステリに仕上がりました。四編構成の連作スタイルですが、前半三編と、最終話で趣はやや異なります。前半三編は、小四郎と幼馴染みの山川穂継のコンビものともいえるスタイルで謎解きを味わえます。そこから一転して最終話は、天狗党の西上を描いており、戦(いくさ)後の夜に〈化人〉と呼ばれる殺人鬼が登場します。なぜ〈化人〉は重傷を負った兵を狙って、殺人を犯すのか? この不可解な事件の謎解きと、過酷な行軍の様子は今作最大の読みどころの一つといえます。

 そういえば、昨年のNHK大河ドラマ『青天を衝け』でも、『虹の涯』と同じ時代が描かれました。今作の主人公である藤田小四郎を演じていたのは、藤原季節さんでした。そして「小四郎」と言えば、現在放送中の『鎌倉殿の13人』の主人公・北条義時(小栗旬さん)も通称も小四郎ですね。

 また、カバーは岡田航也さんに、天狗党の西上の様子を迫力あるイラストにしていただきました。歴史好きの読者も、ミステリ好きな読者も楽しんでいただける内容に仕上がったかと思います、どうぞよろしくお願い申し上げます。