昨年本欄で紹介したリチャード・レヴィンソンとウィリアム・リンクのコンビ(《刑事コロンボ》の脚本やプロデュースで有名)の日本オリジナル短篇集の第二弾が『レヴィンソン&リンク劇場 突然の奈落』(後藤安彦他訳 扶桑社ミステリー 950円+税)だ。第一弾の『皮肉な終幕』と同じく、ひねりの効いた一〇篇が収録されている。
妻を自殺に見せかけて殺すことに成功した男に脅迫者から電話が掛かってくる「ミセス・ケンプが見ていた」では、脅迫者と殺人者の攻防の果てに思わぬ切り札が示される。ついつい犯罪に手を染める決断をしてしまう人物を描いたのが「鳥の巣の百ドル」と「最高の水族館」。二つの作品で犯罪者が迎えるそれぞれの結末を読み比べを堪能した。特に後者の結末は意外かつ辛口で忘れがたい。抜群の記憶力を持つ男が主人公の「記憶力ゲーム」と、自動車にはねられて記憶喪失になった男が主人公の「氏名不詳、住所不詳、身元不詳」が並んでいるのも嬉しい。単独で読んでも十分に愉しいのだが、続けて読むと、記憶という題材を使いこなすレヴィンソン&リンクの技巧の多彩さを体感できて、なお愉しい。
「最後のギャンブル」は、ラスベガスを訪れた夫婦の愛憎劇がなんとも奇妙なギャンブルに帰着する一篇。冒頭で示される依頼事項との呼応が抜群に鮮やかだ。最終話「ロビーにいた男」は、警察官が手配書の似顔絵とそっくりな男を発見したことから始まる物語。尋問の果ての結末が予想外の極みだ。軍の施設を舞台とする「生き残り作戦」や青春小説「ちょっとした事故」も意外な展開であり、今回の一〇篇もまた気軽に読めて満足必至の逸品(いっぴん)揃いであった。
最後はジェフリー・ディーヴァーの新作。今年に入って、短篇集の『フルスロットル トラブル・イン・マインドⅠ』と『死亡告示 トラブル・イン・マインドⅡ』と、既に二作品が翻訳刊行されているが、六月末、なんと三冊目が刊行された。『ファイナル・ツイスト』(池田真紀子訳 文藝春秋 2600円+税)である。『ネヴァー・ゲーム』(二〇二〇年)『魔の山』(二一年)に続く第三弾であり、第一期三部作の完結篇となる。
「最後のギャンブル」は、ラスベガスを訪れた夫婦の愛憎劇がなんとも奇妙なギャンブルに帰着する一篇。冒頭で示される依頼事項との呼応が抜群に鮮やかだ。最終話「ロビーにいた男」は、警察官が手配書の似顔絵とそっくりな男を発見したことから始まる物語。尋問の果ての結末が予想外の極みだ。軍の施設を舞台とする「生き残り作戦」や青春小説「ちょっとした事故」も意外な展開であり、今回の一〇篇もまた気軽に読めて満足必至の逸品(いっぴん)揃いであった。
最後はジェフリー・ディーヴァーの新作。今年に入って、短篇集の『フルスロットル トラブル・イン・マインドⅠ』と『死亡告示 トラブル・イン・マインドⅡ』と、既に二作品が翻訳刊行されているが、六月末、なんと三冊目が刊行された。『ファイナル・ツイスト』(池田真紀子訳 文藝春秋 2600円+税)である。『ネヴァー・ゲーム』(二〇二〇年)『魔の山』(二一年)に続く第三弾であり、第一期三部作の完結篇となる。
三部作の主人公は〝懸賞金ハンター〟コルター・ショウ。父親に幼いころからサバイバル術を叩き込まれた男だ。その彼が、過去二作では解き明かされなかった父親の死の真相にいよいよ迫っていくのが本書だ。死の背後の闇に迫るだけに、〝敵〟の動きも必死になる。故(ゆえ)にショウは序盤から様々なピンチに追い込まれることになるのだ。彼はもちろんサバイバル術を駆使して危機を脱出しようとするが、今回は前二作よりも敵の攻め手が厳しく、独力(どくりょく)では対応しきれない状況も生まれる。これが第三弾ならではの激しい攻防であり、それがまずはスリリングだ。
そのうえで、攻防に参加する顔ぶれもまた嬉しい。過去の作品で登場した悪役が敵側の重要人物として登場するし、一方でショウの味方として、彼の家族や、過去の作品で繫がりを築いた人物も登場する。要するに総力戦なのだ。そうした豊富な手駒(てごま)を得て、ドンデン返しの魔術師として知られる著者は、鮮やかに指揮棒を振る。思わぬかたちでの敵襲があり、機知に富んだ反撃がある。アクションの連続のなかで、読者の予想を裏切るというディーヴァーの才能が存分に発揮されているのだ。
また、父の死に深く関係した〈エンドゲーム・サンクション〉なるものの正体も本作では明らかになるのだが、それはもう驚愕(きょうがく)の極みとしか言い様のないもの。さすがはアメリカの発想というべきか……。現代社会を冷静に把握(はあく)したうえでエンターテインメントに仕上げる著者の冴えを感じさせる〝正体〟であった。《リンカーン・ライム》シリーズとは異なる刺激に満ちた《コルター・ショウ》三部作、是非まとめて御賞味あれ。
そのうえで、攻防に参加する顔ぶれもまた嬉しい。過去の作品で登場した悪役が敵側の重要人物として登場するし、一方でショウの味方として、彼の家族や、過去の作品で繫がりを築いた人物も登場する。要するに総力戦なのだ。そうした豊富な手駒(てごま)を得て、ドンデン返しの魔術師として知られる著者は、鮮やかに指揮棒を振る。思わぬかたちでの敵襲があり、機知に富んだ反撃がある。アクションの連続のなかで、読者の予想を裏切るというディーヴァーの才能が存分に発揮されているのだ。
また、父の死に深く関係した〈エンドゲーム・サンクション〉なるものの正体も本作では明らかになるのだが、それはもう驚愕(きょうがく)の極みとしか言い様のないもの。さすがはアメリカの発想というべきか……。現代社会を冷静に把握(はあく)したうえでエンターテインメントに仕上げる著者の冴えを感じさせる〝正体〟であった。《リンカーン・ライム》シリーズとは異なる刺激に満ちた《コルター・ショウ》三部作、是非まとめて御賞味あれ。
■村上貴史(むらかみ・たかし)
書評家。1964年東京都生まれ。慶應義塾大学卒。文庫解説ほか、雑誌インタビューや書評などを担当。〈ミステリマガジン〉に作家インタヴュー「迷宮解体新書」を連載中。著書に『ミステリアス・ジャム・セッション 人気作家30人インタヴュー』、共著に『ミステリ・ベスト201』『日本ミステリー辞典』他。編著に『名探偵ベスト101』『刑事という生き方 警察小説アンソロジー』『葛藤する刑事たち 警察小説アンソロジー』がある。