紺野天龍(こんの・てんりゅう)『神薙虚無(かんなぎ・うろむ)最後の事件』(講談社 1700円+税)は、メフィスト賞や鮎川哲也賞など複数の新人賞に投じられてきた著者にとって強い思い入れのある作品が磨(みが)き抜かれ、満を持しての刊行となった長編だ。


 二十年前にベストセラーを記録した御剣大(みつるぎ・まさる)の〈神薙虚無〉シリーズは、実在した名探偵の活躍を綴(つづ)った内容で、最終作では大きな謎が残されたままになっており、ミステリ好きの間で伝説化していた。

 ある日、大学生の白兎(はくと)と後輩の志希(しき)は、体調を崩して路上に倒れこんでいる女性を介抱する。唯(ゆい)と名乗るこの女性、じつはあの御剣大の娘だそうで、彼女の依頼により白兎と志希は、学内にある「名探偵俱楽部」のメンバーたちと、いわくの作品『神薙虚無最後の事件』に秘められた謎を解き明かそうと動き出す……。

 作中作に加えて多重解決まで盛り込んだ内容はミステリとして誠に華やかな印象で、謎解きが繰り出されるごとに真相の明暗が変化していく流れも、メリハリが利いていて先を追わずにはいられなくなる。そしてなんといっても本作最大級の美点は、そのラストシーンだ。これは謎解きと物語がしっかりと完成して、堂々たる台座の役目を果たさなければ、そこに置いてみたところで輝きは弱く、肩透かしになりかねないものだ。本作とプロトタイプのもっとも大きな差は、きっとここなのではないかと考える。ついに描きたかったものを最高の形で具現化した著者と、そこに至る道を整え磨き上げた編集担当者に、心より敬意を表する。

 村崎友(むらさき・ゆう)『風琴(ふうきん)密室』(KADOKAWA 1700円+税)は、〝密室の伝道師〟(帯の惹句(じゃっく)より)による、じつに七年ぶりとなる最新作。

 のどかな忍棚(おしだな)村に暮らしている高校生の凌汰(りょうた)は、子供の時分に不幸な事故によって兄を亡くしており、その直前に目にした不可解な出来事とあわせて過去に囚われていた。

 夏休みのある日、幼馴染(おさななじ)みの仲間たちと廃校となった小学校を片付けるバイトに勤(いそ)しんでいると、東京から来たふたりの女子高生に出会う。なんとそのうちのひとりは六年前の夏、短い期間だったが凌汰と兄と三人で一緒に遊んだ転校生「雨(あめ)ちゃん」こと雨田菫(あめだ・すみれ)だった。思わぬ再会を果たして喜ぶ凌汰たちは、そのまま廃校に宿泊し、旧交を温める。ところが翌朝、プールに沈んでいる仲間のひとりが見つかる……。

 悪天候に見舞われたあの日、兄が秘密基地から忽然(こつぜん)と消えた謎と、仲間の命が奪われた事件に絡む不可能状況。過去と現在のふたつの密室が本作の柱となっているが、この仕掛けをはじめとする様々なミステリ的要素が、苦味を含んだ青春物語に、じつに有機的に結びついていて素晴らしい。「密室」の面白さとは、奇抜なアイデアの出し合いばかりではないことを教えてくれる点で、まさしく〝密室の伝道師〟の作品にふさわしい内容といえる。高校生たちの謎解きにひと役買う大学生――風沢(ふうさわ)の静かな佇(たたず)まいも好ましく、また別の形での再登場を願うばかり。〝願うばかり〟というなら、一番はつぎの新たな作品が、より短いスパンで刊行されることを……。


■宇田川拓也(うだがわ・たくや)
書店員。1975年千葉県生まれ。ときわ書房本店勤務。文芸書、文庫、ノベルス担当。本の雑誌「ミステリー春夏冬中」ほか、書評や文庫解説を執筆。

紙魚の手帖Vol.06
ほか
東京創元社
2022-08-12