グーグルの検索履歴を見られただけでも、政府の監視リストに載ってしまいそうだ。だって、殺人事件を扱ったサスペンス小説を書いているんだもの。人を殺すありとあらゆる方法を調べた。考えうるかぎりの武器を使って。死体の処分方法についてもことごとくリサーチした。 ――本文より

みなさんこんにちは。冒頭の引用は、9月30日発売の創元推理文庫『サスペンス作家が人をうまく殺すには』(原題:Finlay Donovan Is Killing It、エル・コシマノ著、辻早苗訳)の本文からです。いったいどんなシチュエーションなのか!? こんな感じです。

売れない作家が、小説の打ち合わせを聞かれて殺し屋と勘違いされ、
殺人を依頼されてしまう!!

そんな、なんともびっくりな本書のあらすじは……。

売れない作家フィンレイの朝は、爆発状態だ。大騒ぎする幼い子どもたち、請求書の山、撒き散らされたコーヒーの粉。もう、だれでもいいから人を殺したい気分――とはいえ、本当に殺人の依頼が舞い込むとは! レストランで小説の構想の打ち合わせをしていたフィンレイは、隣席の女性から男の名前と5万ドルと書かれたメモを渡される。話の内容とマザーバッグのなかの血のついたタオルと包丁のせいで、殺し屋と勘違いされたらしい。依頼を断わろうとするが、本物の死体に遭遇して……。予想外の展開で一気読み必至! 本国で話題沸騰のサスペンス。

作家が仕事の話をしていたら、内容から誤解されてしまう……。なんともありそうな(?)設定です。実はわたくし翻訳班Sも似たような危ない会話を繰り広げた経験があります。レストランやカフェで翻訳者さんと打ち合わせをする際、作品について熱く語り合うわけです。「今回、何人死んでましたっけ?」「バラバラ死体って処理がたいへんですよね」「この殺し方はびっくりしましたよね~」とかなんとか。人様が聞いたらぎょっとしちゃいますよね……。でも、ミステリ編集者なので!!

本書の主人公のフィンレイことフィンは、作家でありつつ2児の母でもあります。夫の浮気から離婚し、小さな子供たちの世話をしながら仕事をしていますが、それは至難の業。朝から子供たちが泣きわめき、請求書は机に山となり、床にはコーヒーの粉がまき散らされ……そんな爆発状態のフィンが、巻きこまれてとんでもないことになる展開が、とにかくすごい!! 本当に、著者はよくこんなこと思いつくな!? と驚くくらい、さまざまな出来事がフィンに降りかかります。

そんな彼女を助けてくれるのが、本書の重要なキャラクターのひとり、ベビーシッターのヴェロです。でも、彼女の存在でさらに事態は混沌としてしまう……のですが、女性たちのからっとした関係性がとても素敵に思えるのです。辻早苗先生が巧みに翻訳してくださっており、フィンの一人称の地の文だけでなく、会話の面白さにも、何度もくすっとさせられました。

著者のエル・コシマノさんはアメリカの作家で、主にヤングアダルト(YA)の分野で活躍していました。2014年刊行のNearly Goneは国際スリラー作家協会のベストYA賞を受賞、アメリカ探偵作家クラブ賞ベストYA賞の最終候補にもなっています。2021年刊行の初の一般向けミステリが本書『サスペンス作家が人をうまく殺すには』で、本国で人気爆発、累計10万部を突破しました! そしてニューヨーク公共図書館が選ぶ2021年ベストブックの一冊に選ばれています。
なお、本書の続編のFinlay Donovan Knocks 'Em Deadも2023年に創元推理文庫から翻訳刊行が決定しています!

『サスペンス作家が人をうまく殺すには』のカバーイラストは、オカダシゲコさんが変装したフィンをユーモアたっぷりに描いてくださいました。本編を読んだ方がニヤっとできるような素敵なイラストで、著者も大絶賛してくれました!
カバーデザインは藤田知子さんです。とにかくスタイリッシュ! 原題も邦題も長くてすみませんでしたが、おしゃれでインパクト抜群だと思います!
ありがとうございました。

『サスペンス作家が人をうまく殺すには』は9月30日に発売されたばかりです。憂鬱な気分を吹き飛ばせるようなパワーのある作品ですので、気軽に楽しく読んでくださいませ!

(東京創元社S)