後半二作品は、これからの活躍が愉しみな新人デビュー作をご紹介。
鴨崎暖炉(かもさき・だんろ)『密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック』(宝島社文庫 800円+税)は、第二十回『このミステリーがすごい!』大賞の文庫グランプリ受賞作。
鴨崎暖炉(かもさき・だんろ)『密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック』(宝島社文庫 800円+税)は、第二十回『このミステリーがすごい!』大賞の文庫グランプリ受賞作。
日本初といわれる密室殺人事件をめぐる裁判において、密室の不解証明は現場の不在証明と同等の価値があるとして無罪判決が出たことにより、密室殺人事件が一気に激増。警察に「密室課」が創設され、さらに密室探偵の活躍や密室殺人を代行する業者までもが登場する現代。主人公の葛白香澄(くずしろ・かすみ)は、幼なじみの朝比奈夜月(あさひな・よづき)とともに、密室を得意とするミステリ作家が遺(のこ)した「雪白館」に向かう。現在は改装されホテルとなっているその館では十年前に未解決の密室事件が起きていたが、なんとそれを再現したような殺人事件が発生。繰り返される密室殺人の謎、残されたトランプの真意とは……。
とにかく密室ネタをこれでもかと詰め込んだ遊び心もさることながら、そこに注がれた熱量がじつに清々(すがすが)しく、読む者の本格ミステリ魂を刺激する。この初心を忘れずに、ぜひハウダニットの道を究めていただきたい。
京橋史織(きょうばし・しおり)『午前0時の身代金』(新潮社 1500円+税)は、大掛かりな誘拐ネタに臆することなく挑んだ、第八回新潮ミステリー大賞受賞作。
とにかく密室ネタをこれでもかと詰め込んだ遊び心もさることながら、そこに注がれた熱量がじつに清々(すがすが)しく、読む者の本格ミステリ魂を刺激する。この初心を忘れずに、ぜひハウダニットの道を究めていただきたい。
京橋史織(きょうばし・しおり)『午前0時の身代金』(新潮社 1500円+税)は、大掛かりな誘拐ネタに臆することなく挑んだ、第八回新潮ミステリー大賞受賞作。
若手弁護士の小柳大樹は、事務所のボスである美里千春が偶然助けた専門学生の本條菜子の相談を受けることに。図らずも詐欺グループの活動に加担してしまった菜子は、グループのリーダーである川崎に一矢(いっし)報いようと試みるも失敗して追われる身になってしまったのだ。ところが、今後の問題解決へ向けての意思を確認した夜、菜子は突然姿を消してしまう。翌日、小柳はテレビのニュースを見て仰天する。菜子が誘拐され、犯人は日本国民からクラウドファンディングで身代金十億円を集めるよう要求しているという……。
まず前代未聞(ぜんだいみもん)の誘拐プロジェクトのインパクトが素晴らしい。無駄のない文章による話運びも軽快で、ページをめくる手が止まらないエンタテインメントのお手本のごとし。いささかあるキャラクターの使い勝手が良すぎるきらいもあるが、二転三転してついに明らかになる真相が切なく胸を締め付ける。貴志祐介、道尾秀介、湊かなえ、各選考委員満場一致での受賞も頷(うなず)ける出来栄えだ。願わくばシリーズ化して、登場人物たちのここでは描き切れなかった面を掘り下げて欲しいものだ。
まず前代未聞(ぜんだいみもん)の誘拐プロジェクトのインパクトが素晴らしい。無駄のない文章による話運びも軽快で、ページをめくる手が止まらないエンタテインメントのお手本のごとし。いささかあるキャラクターの使い勝手が良すぎるきらいもあるが、二転三転してついに明らかになる真相が切なく胸を締め付ける。貴志祐介、道尾秀介、湊かなえ、各選考委員満場一致での受賞も頷(うなず)ける出来栄えだ。願わくばシリーズ化して、登場人物たちのここでは描き切れなかった面を掘り下げて欲しいものだ。
■宇田川拓也(うだがわ・たくや)
書店員。1975年千葉県生まれ。ときわ書房本店勤務。文芸書、文庫、ノベルス担当。本の雑誌「ミステリー春夏冬中」ほか、書評や文庫解説を執筆。