「ひとは読むものよ」女性館長は言った。「戦争であろうとなかろうとね」――本文より
4月19日に発売される『あの図書館の彼女たち』(ジャネット・スケスリン・チャールズ/髙山祥子訳)は、本と物語を愛するすべての人に読んでもらいたい、史実を題材にした素晴らしい小説です。まずはあらすじを……。
1939年パリ。20歳のオディールは、アメリカ図書館の司書に採用された。本好きな彼女は水を得た魚のように熱心に仕事に取り組み、女性館長や同僚、そして個性豊かな図書館利用者たちとの絆を深めていく。やがてドイツとの戦争が始まり、図書館は病院や戦地にいる兵士に本を送るプロジェクトに取り組み始める。しかしドイツ軍がやってきてパリを占領し、ユダヤ人の利用者に危機が訪れ……。
1983年アメリカ、モンタナ州フロイド。12歳の少女リリーは、“戦争花嫁”と呼ばれる孤独な隣人、オディールと知り合いになる。リリーはオディールの家に出入りしてフランス語を教わるようになり、二人の間には世代を超えた友情が芽生えていく。リリーは、しだいにオディールの謎めいた過去が気になりはじめ……。
人々にかけがえのない本を届け続けた、図書館員たちの勇気と絆を描く感動作!
タイトルの「あの図書館」というのは、「パリのアメリカ図書館(The American Library in Paris)」のことです。1920年に開館されたこの図書館は、主に英語書籍を貸し出し、フランス人だけでなくさまざまな外国人が利用していました。
著者はこの図書館のプログラム・マネジャーとして働いた経験を活かして、本書を執筆しました。図書館の関係者として、女性館長ドロシー・リーダーなど実在の人物が何人か登場しています。
第二次世界大戦の勃発とその後のナチス・ドイツによるフランス占領が起こり、アメリカ図書館はパリ市民、特にユダヤ人にサービスを提供し続けることが困難になりました。しかし、そのような困難な時期にもかかわらず、図書館は閉館しませんでした。戦場や病院にいる兵士のリクエストに応えて本を送るなど、さまざまな方法で活動を続けました。
そういった史実に材を得て、著者はこの物語を執筆しました。戦時下のパリを生きた図書館員たちの勇気を生き生きと描く、まさに感動の物語です。そしてふたりの主人公、パリジェンヌの司書オディールと、アメリカ人の少女リリーという人物を生み出し、女性たちの世代を超えた友情も豊かな筆致で描いています。
物語は1939年から始まるパリのオディールのパートと、1983年からのアメリカ人の少女リリーのパートを繰り返して進んでいきます。戦争に翻弄されつつも図書館員として懸命に働く20代のオディールと、数十年後のリリーという少女から見た年配の寡婦であるオディールが描かれ、その時間の経過によって、物語が非常に豊かになっています。上品で謎めいた老婦人の過去に何があったのか? なぜフランス人の彼女が、家族と離れてアメリカの田舎町に住んでいたのか? 少女リリーの視点から読者はオディールに起こった出来事を探っていき、先が気になってどんどんページをめくっていくことになります。
本書には実在の小説や雑誌がたくさん登場し、著者の本に対する深い愛を感じることができます。本というものが、図書館という場所が、人々の心のよりどころとなるのだという想いが、この作品にはこめられています。ぜひ、本や図書館を愛する人に、手に取ってもらいたいと思います。
*海外での評価や書評
★2021年2月のAmazonベストブックの一冊
★〈ニューヨーク・タイムズ〉ベストセラー
★35か国語に翻訳予定
知的で豊かだ……本や図書館を大切にする人のために書かれた小説。
――〈カーカス・レビュー〉誌
……ナチスに占領されたパリの危機を巧みに描いている。(中略)
寡婦と孤独な少女の間に築かれた友情と絆の物語に惹かれるだろう。
――〈パブリッシャーズ・ウィークリー〉誌
*著訳者紹介
ジャネット・スケスリン・チャールズ Janet Skeslien Charles
アメリカのモンタナ州とパリに拠点を置く作家。2009年刊行のデビュー小説Moonlight in Odessaはメリッサ・ネイサン賞のロマンティック・コメディ小説部門賞を受賞し、〈パブリッシャー・ウィークリー〉誌で2009年秋のデビュー作品トップ10のひとつに選ばれ、10か国語に翻訳されている。パリのアメリカ図書館でプログラム・マネジャーとして働いた経験を活かし、『あの図書館の彼女たち』を執筆した。この作品は2021年2月のAmazonベストブックの一冊に選ばれ、〈ニューヨーク・タイムズ〉紙のベストセラーリストに載るなど人気を博し、35か国語に翻訳される予定。
髙山祥子 Takayama Shoko
1960年東京都生まれ。成城大学文芸学部卒業。訳書にサラ・グラン『探偵は壊れた街で』『探偵は孤高の道を』、アリソン・マクラウド『すべての愛しい幽霊たち』、ジェームズ・バロン『世界一高価な切手の物語』、ケイト・ウィンクラー・ドーソン『アメリカのシャーロック・ホームズ』、レスリー・M・M・ブルーム『ヒロシマを暴いた男』などがある。