読者の目に映る景色を二転三転させ、ドンデン返しの魔術師と呼ばれるジェフリー・ディーヴァー。彼が〝懸賞金ハンター〟コルター・ショウを主人公として2019年にスタートさせた新シリーズの第2弾が『魔の山』(池田真紀子訳 文藝春秋 2500円+税)だ。

 両親の依頼を受け、ショウは教会を襲撃したとして逃亡中の若者二人の行方を追っていた。彼等の居場所を突き止めたショウだったが、二人のうちの一人が目の前で投身自殺してしまう。そうする必然性はなかったのに、だ。疑問に思ったショウがさらに調査を進めると、あるカルト集団の存在が浮かび上がってきた。ショウは、ワシントン州の山中にある集団の施設に、入会者として潜入しようと決意する。かつてこの集団を取材していた記者が殺害されていたことを知りながら……。

 潜入に際して持ち物をすべて取り上げられてしまうショウ。徒手空拳(としゅくうけん)の彼が、父親に叩き込まれたサバイバル術と知恵を駆使して調査を進め、生き延びていく様が、読み手を歓喜させる。もちろん著者ならではの語り口の妙も健在。場面転換を駆使して読者をひきつけ続けるのだ。しかも、ライムの捜査方法やそれが生じさせるドンデン返しとはまた異なるスタイルでそれを実践していて新鮮で素敵だ。なお、本シリーズはショウの一家に関する大きな謎を追うという側面もあり、早速次作が気になる小説でもある。中毒必至だ。

『混沌の王』(平岡敦訳 行舟文化 1500円+税)は、2002年に翻訳刊行された『第四の扉』以降、本格ミステリ系のベストテンの常連となったポール・アルテの長篇である。これまでに、長篇としては三作が訳されている《オーウェン・バーンズ》シリーズだが、本書はその第1作だ。

 アキレス・ストックは、友人であり、美術評論家であり、アマチュア探偵でもあるオーウェン・バーンズから、少々風変わりな依頼を受けた。彼の代役として、ロンドン郊外に位置するチャールズ・マンスフィールドの屋敷に赴(おもむ)いて欲しいというのだ。しかも、探偵とは名乗らず、クリスマスにその屋敷を訪れるキャサリン・ピゴットの婚約者という位置付けで乗り込めというのである。

 このキャサリンこそが、オーウェンに調査を求めた依頼人であり、兄のサミュエル・ピゴットの身を案じているという。3年前のチャールズの義理の息子が殺された事件をはじめ、マンスフィールド一族の周囲では、奇怪な死が繰り返されているかららしい。オーウェンに説得されたアキレスは屋敷に乗り込むが、内部で手引きするはずのキャサリンが怪我で入院。孤立無援の状況に置かれてしまう……。

 J・D・カーを愛好する著者が、20世紀初頭の英国を舞台に、その趣味嗜好(しこう)を全力で注ぎ込んだ一冊。アキレスは本シリーズの語り手であり、ワトスン的存在なのだが、今回は現場で孤軍奮闘する役割も担(にな)っている。そのアキレスを通じて、読者はマンスフィールド一族が200年近くも奇怪な死にとりつかれていることを知り、今回はチャールズが霊媒師を招いて真相を探ろうとしていることを知り、さらに、3年前の殺人事件が雪による密室状況下で発生していたことを知る。

 アキレスが館を訪れてからも現在進行形で事件は連続し、またしても雪による密室状況で死者が発見され、これまでの呪いを彷彿(ほうふつ)とさせる白い仮面の謎の人物も見え隠れする様を読んでいくことになる。なんとも愉しい読書なのだ。後半に入るとオーウェンも警察とともに現地に入り、追加調査を行い、そして――当然ながらこの場面もある――関係者を一堂に集めて真相を語る。いかにもなのだが、この「いかにも」が嬉しい。大団円後から数年後のエピソードやエピローグも興味深く読めて、最後の一行まで著者の本格魂を味わえる。


■村上貴史(むらかみ・たかし)
書評家。1964年東京都生まれ。慶應義塾大学卒。文庫解説ほか、雑誌インタビューや書評などを担当。〈ミステリマガジン〉に作家インタヴュー「迷宮解体新書」を連載中。著書に『ミステリアス・ジャム・セッション 人気作家30人インタヴュー』、共著に『ミステリ・ベスト201』『日本ミステリー辞典』他。編著に『名探偵ベスト101』『刑事という生き方 警察小説アンソロジー』『葛藤する刑事たち 警察小説アンソロジー』がある。