「郵便碁」をご存知ですか。遠隔地の相手と郵便を通して対局(葉書や手紙に一手ずつ書いて、交互に送って対戦)するもので、自分の打つ手や近況を書いて送れば、2、3日で相手に着く。それを繰り返す訳だから、一局が終わるのに一年以上はかかる。ゆっくり考えられるのも利点で慣れると味のあるものらしい。1966年(昭和41年)に日本郵便碁愛好会が出来たそうだ。大和百貨店(金沢)社長、のちに会長であり出版社「勁草書房」の社長でもあった故井村寿二(いむら・じゅじ)氏を中心に発足したもので、最盛期には約800人の会員がいたそうで、現在でも約500人と聞いている。根強い人気があるようだ。

 そもそも「郵便碁」というのは、村瀬秀甫(むらせ・しゅうほ、のち18世本因坊)が方円社時代に考案し、岩手県在住の三戸与彰(さんのへ・ともあき)さんと打ったのが始まりとされている。方円社とは日本棋院の前身ともいえるが、明治大正の棋界に大きな役割を果たした囲碁の団体である。余談だが、「電報碁」なるものをドイツのデュパール博士と鳩山一郎首相が打ったという記録もある。いずれにしても悠長なものだ。「ファックス碁」というのもあったと聞く。ネット社会になって、今や会ったこともない外国の同好者といつでもリアルタイムで対局できるようになった。それはそれで素晴らしいことだけれど、「郵便碁」には、何だか懐かしい味を感じる。

 コロナ禍の中で、対局に不自由した。近所の碁敵と打ちたいのだが、家族の眼もあってままならない。そんな折、「郵便碁」ならぬ「散歩碁」を考えた。歩くと15分くらいの所に住んでいる碁敵に、棋譜に一手を記して届ける。翌日相手は一手を記してこちらに届ける。一局終わるのにどれくらいかかるのか分からないが、少なくとも散歩の足しになる。結構面白い。

 閑話休題。

 囲碁の醍醐味と言えば、何と言っても『攻め』であろう。相手の石を攻めるのは実に楽しい。相手が苦慮しているのを感じるのは何とも快感である。しかし攻めることは、相手の石を殺すことではない。アマチュアの碁では、攻めて、活きられて、負けというパターンの碁も少なくない。プロは、「どうぞ活きて下さい」という風に攻めてポイントを上げていくような打ち方をする。

 本書は、攻められる石と攻められない石の区別や、どうやって石を攻めるのかのテクニックについて解説したものである。常に「攻め」を意識しながら、矛を収める時期等を学んでいただければ、幸いである。精読すれば、棋力の向上は間違いのない本だと担当者は自負している。

攻めすぎは禍を招く (碁楽選書)
金 萬樹
東京創元社
2022-02-10