《ハリー・ポッター》の楽しさは、おばけ屋敷のような全寮制の魔法学校ホグワーツに負うところが大きい。古城を歩き回る幽霊、どこにつながるかわからない動く階段、扉を抜ける合言葉、表情の変わる肖像画。夢の秘密基地みたいなものだ。

 同様に秘密基地感は満載ながらナオミ・ノヴィク『闇の魔法学校 死のエデュケーション Lesson 1』(井上里訳 静山社 1900円+税)の学校は、魔物だらけの危険極まりない化け物屋敷だ。時空の狭間(はざま)に浮かぶこの学校には、教師も職員も存在せず、学校そのものがなんらかの意図を持って生徒を教育している。教室にも寮の部屋にも魔物は入り込み、常に生徒たちを狙っている。学校は4年制。才能と運と機転に恵まれ、過酷な4年間を生き延びたとしても、大半の生徒は卒業試験をクリアできずに命を落とす。生徒たちの間に友情など存在しない。あるのは、生き残るために有益な相手かどうかという打算だけだ。過去には、黒魔術に手を染めた12人の生徒が、魔法の源泉であるマナを奪うために、残りの4年生を皆殺しにした年もある。巨大な歯車型の学校の構造も凄いのだが、とんでも設定を羅列(られつ)するだけで紙幅が尽きそうなので、物語に移ろう。


 主人公のガラドリエルは、得意技が大量虐殺魔法なために、実力を発揮する機会に恵まれず、3年も終わろうというこの時期に至ってもクラスメートからはノーマーク。有力な後ろ盾(だて)もなく、このままでは生きて卒業できる可能性は極めて低い。ところが、ひょんなことから学年一の英雄オリオンの恋人だとの噂がたち、クラス中の注目を集める存在に……。学校という閉ざされた巨大ギミックの中でだけ物語が推移するために、作り物めいた狭苦しさは否めないが、物語運びの面白さは抜群。独立心旺盛で警戒心の強いガラドリエルが、これからどんな仲間を見つけ、学校と対決するのかが楽しみだ。予告では3部作。本国ではまもなく第2巻が刊行される。

 ノヴィクといえばナポレオン戦争にドラゴン空軍部隊を投入した架空戦記《テメレア戦記》は、ピーター・ジャクソンによる映画化が白紙に戻ったこともあってか、翻訳刊行が止まってしまっている。どこか続きを出してくれませんかね。なおこの《闇の魔法学校》も既にユニバーサルが映画化権獲得とのニュースも伝わっている。

 数年前に講談社タイガから刊行された荻原規子(おぎわらのりこ)《エチュード春一番》シリーズだが、角川文庫が既刊2冊を復刊し、さらにこのほど書き下ろしの第3巻『エチュード春一番 第三曲 幻想組曲「狼」』(角川文庫 700円+税)も刊行された。


 第1巻は八百万(やおよろず)の神様が宿る犬を拾ってしまった女子大生が、同級生の幽霊騒動に巻き込まれる顚末(てんまつ)を描いた少し不思議な謎解きものだったが、荻原規子のシリーズものは中盤で予想もしなかった方向に転がり始めるので油断できない。というわけで最新巻。なんと女子大生は神様の力で平将門(たいらのまさかど)の時代に精神だけをタイムスリップして、将門の挙兵を体験するという展開。将門の陣中に蝦夷(えみし)の巫女のような少女を配置、さらに帝(みかど)の血筋への呪いや、狼が人の形をとった修験道の行者も登場。《勾玉》シリーズや『RDG』を含めた歴史の読み替え作業が本格的に始まったのかもしれない。犬が饒舌(じょうぜつ)に語る神や信仰の薀蓄(うんちく)も、いかにもこの著者らしい内容で面白いのだが、しかし神様は犬の姿に飽き足らず、ヴァーチャルな人間体まで作製、物語はどこに向かおうとしているのだろうか。

紙魚の手帖Vol.01
櫻田 智也
東京創元社
2021-10-12