あけまして、おめでとうございます。2022年の幕開けに、本格ミステリの新作をいかがでしょう? 方丈貴恵が贈るシリーズ第三弾『名探偵に甘美なる死を』も新春に相応しい力作に仕上がっています。
デビュー作、『時空旅行者の砂時計』で第29回鮎川哲也賞を受賞。第二長編の『孤島の来訪者』では「2020 SRの会ミステリーベスト10」第1位を獲得し、今冬の年末ミステリランキングでも大健闘(「このミス」13位、「本ミス」7位、「ミステリが読みたい!」13位)したことでも記憶に新しいところ。
今作は本格ミステリの王道である“館”もの。とはいっても、前二作同様に著者ならではの仕掛けが仕込まれています。また、第一作の主人公・加茂冬馬、第二作の主人公・竜泉佑樹が共に登場し、事件の謎に挑みます。

著者・方丈貴恵さんに、新春企画&新刊発売記念でミニインタビューをお願いしました。ぜひ新刊『名探偵に甘美なる死を』と併せてお楽しみください。


■方丈貴恵さんミニインタビュー

――最初に、簡単な自己紹介をお願いいたします。
出身は兵庫県の姫路でして、大学卒業後はゲーム会社に9年勤務し、キャラクター商品化や知的財産関連のお仕事をしていました。そして退職後に第29回鮎川哲也賞を受賞しまして、『時空旅行者の砂時計』でデビューしました。
SFファンタジー味のある物語を読んだり観たりするのが好きで……自分が書く時もそういった要素を含んだ話になることが多いですね。
本日はよろしくお願いいたします。

――新刊『名探偵に甘美なる死を』について、まずは簡単にあらすじを教えてください。
舞台は2024年。メガロドン・ソフトから「犯人役を演じてもらいたい」という変わった依頼を受けた加茂冬馬は、VRミステリゲームのイベント監修を行うことになります。
それは『素人探偵』八名を“館”に集め、そこで犯人当て形式のVRゲーム試遊会を行うというものだったのですが……そのイベントは探偵とその人質の命を懸けた殺戮ゲームへと変貌してしまいます。
『時空旅行者の砂時計』に続き、加茂冬馬は家族を守る為に、VR空間と現実世界の両方で発生する不可解な殺人事件の謎に挑みます。

――〈竜泉家の一族〉シリーズとのこと。前二作との関連はどういったものでしょう? ネタバレにならない程度にお教えください。
前二作はシリーズでありながら、単体で読んでも楽しめるのが特徴でした。
主人公も一作目は加茂冬馬、二作目は竜泉佑樹という風に交代し、彼らはそれぞれ『探偵役』として活躍しますが……竜泉佑樹は一作目の事件の真相を知らないままという、およそシリーズらしくない面もありました。
このような変わった構成になっていたのには理由があります。実は……〈竜泉家の一族〉シリーズ全体で考えると、前二作はある意味『導入編』のような役割も担っていたのです。
一方、『名探偵に甘美なる死を』では、前二作の主人公がメインキャラクターとして再登場します。加茂冬馬も竜泉佑樹もそれぞれがその推理力を買われる形で、『素人探偵』の一人としてメガロドン・ソフトから招待を受けました。
こうして二人は殺戮ゲームへと誘われることになるのですが……ここから先は『読んでのお楽しみ』ということで、お願いします(笑)。
更に、今作では〈竜泉家の一族〉シリーズがどのようなシリーズかということも少しずつ明らかになってきますので、その辺りも楽しんで頂けると嬉しいです。

――過去の作品と比較して、今作で挑戦した部分などありましたら教えてください。
作中にVRゲームが登場しているように、今作も特殊設定ミステリなのですが……前二作とは特殊設定の毛色が少し違うものになっています。
そして今作の最大の特徴は……『時空旅行者の砂時計』と比べても、“館ミステリ”としての濃度がぐっと上がったことではないかと思います。その分、執筆や校正では色々と苦労をしました (笑)。
更に、今回はそこに倒叙の要素も加えることで、これまでにない『探偵役と犯人の頭脳戦・推理戦』を楽しめるミステリを目指しました。

――今回はVRゲームも題材としていますが、お好きなゲームなどあれば。
最近はあまりプレイできていないのですが、『アンチャーテッド』シリーズや『アサシン クリード』シリーズや『モンスターハンター』シリーズは遊んでいて、本当に楽しいですね。どのゲームも没入感がすごくて、実際にその世界で冒険しているような感覚を味わうことができて……。
ゲームはインタラクティブなのが特徴で、グラフィック・ゲームシステム・操作性・ストーリーなど、いくつもの要素が複雑に絡み合ってできているのが面白いですね。
こういった小説との違いは、大変勉強になります。

――長編第二作『孤島の来訪者』が「2020年SRの会ミステリーベスト10」第1位となりましたが、その他年末ミステリランキングの結果を受けて、ご感想は?
毎年「SRの会ミステリーベスト10」を拝見しては、「一度でいいから、私もランクインできたらいいな……」と思っていました。それがまさか、第1位となってSRアワードを頂けるとは夢にも思っていなかったので、嬉しさも喜びもひとしおでした。改めましてSRの会の皆さま、誠にありがとうございました。
そして、『このミステリーがすごい!』と『ミステリが読みたい!』で13位に、『本格ミステリ・ベスト10』では7位にランクインできたことについても、とても嬉しく感謝の気持ちで一杯です。
実は『孤島の来訪者』を執筆した時には、途中で怒って本を投げる人が出てくるかも知れないと覚悟を決めていたのですよね(笑)。それをこうして高く評価して頂けたことが本当に光栄で、皆さまの懐の広さに感激しております。

――好きな作家と作品をそれぞれ教えてください。
ミステリ作家ですと、やはり横溝正史、綾辻行人、市川憂人、レイモンド・チャンドラーの四人でしょうか。それぞれの先生のマイベストは『本陣殺人事件』『迷路館の殺人』『ジェリーフィッシュは凍らない』『長いお別れ』です。
どの先生の作品も、純粋に読んでいて楽しくて仕方ないのですよね。物語が終盤に差しかかると、「ああ、もっと読んでいたいのに!」という気持ちで一杯になります。
その他、好きな作品を上げると……『硝子のハンマー』(貴志祐介)、『見えないグリーン』(ジョン・スラデック)、『野獣死すべし』(ニコラス・ブレイク)などでしょうか。これらの作品には、完全に好みのストライクゾーンを撃ち抜かれました(笑)。

――ご自身で目指す理想のミステリの形はありますか?
これが自分でも驚くほど、流動的に変わっていくものなのですよね。
デビュー当時は、『読者への挑戦』と特殊設定ミステリの組み合わせのポテンシャルを追いかけるのに夢中だったのですが、〈竜泉家の一族〉シリーズを三作品書いたことで一区切りついたように感じています。……このテーマに限って言えば、今の私にできることは概ねやったのではないかな、と。
とはいえ、『本格ミステリ的な面白さを物語の主軸に置く』という執筆方針はデビュー当時から全く変わっていませんので、特殊設定に限らず本格ミステリの新たな面白さ・楽しさを追求するような作風を目指していけたら、と考えています。

――大学在学中は京都大学推理小説研究会にご所属されていたとのことですが、そのご経験は執筆にどのようにいかされていますか?
〈竜泉家の一族〉シリーズは『読者への挑戦』が挿入されているのが特徴の一つです。
その性質上、手がかりや伏線の提示のさせ方、それらのフェアさに気を遣う必要があるのですが……京大ミステリ研名物(?)の『犯人当て』を通じて学んだことがなければ、このシリーズは執筆できなかったと思います。
もちろん、自分が『犯人当て』を書いた経験も重要だったのですが……最も勉強になったのは、『犯人当て』の発表が終わった後で述べ合う感想でした。
勝手知ったる会員同士ですから、作品の良かったところも弱点・問題点についても、ある意味で遠慮なく意見が飛び交うのですよね。皆、創作にミステリに真摯に向き合っている気迫が伝わってきて……あの貴重な場にいられたのは本当に幸せなことだったと思います。

――最後に、今後書きたい題材や抱負があればお聞かせください。
次の長編はシリーズものではない、全くの新作を考えています。
もちろん〈竜泉家の一族〉シリーズの本格ミステリとしての良さは残しつつ、ゲームで言うところの『オープンワールド』的な楽しさのある物語にすることで、作家としても新たな境地を目指せればと考えています。
この方向を突き詰めれば、何か面白いことが出来そうな予感はしているのですが……まだまだ課題点も多いので、持てる限りの力を振り絞って執筆に挑みたいと思います。
その他、ノンシリーズの短編も書きたいと考えています。ノンシリーズの醍醐味は、一作一作で振り切ったことができるところにあると思うので、何かあっと驚くような仕掛けのある作品を目指したいですね。

以上、ありがとうございました。



孤島の来訪者
方丈 貴恵
東京創元社
2020-11-30


名探偵に甘美なる死を
方丈 貴恵
東京創元社
2022-01-08