SFマンガ史概説(抜粋)

福井健太 Kenta FUKUI



 最初にコンセプトを記しておくと、本書はオールタイムベストの選集ではない。ジャンルの巨大さを鑑みるに、全時代を対象にすることは極めて難しい。そこで今回は黄金期である一九七〇年代を中心として、メジャー作家の名篇を採ることにした。目的は隠れた逸品の発掘ではなく、有用な起点を示すことにある。各々の著作に手を伸ばし、描き手やテーマのリンクを辿り、SFマンガの世界を渉猟してもらえれば幸いである。
 本稿はSFマンガ史の概説だが、未回収の要素も大量に残っている。その点は御了承いただきたい。タイトル後の括弧内は発表開始年(短篇集や描き下ろしは刊行年)、特記のない星雲賞はコミック部門を表している。
 秋玲二の理科学習漫画、阪本牙城『タンク・タンクロー』(一九三四)、謝花凡太郎『まんが発明探偵団』(三七)などを嚆矢とする見方もあるが、ここでは大城のぼる『火星探検』(四〇/原作=旭太郎)から話を始めよう。〈ナカムラ絵叢書〉の一冊として刊行された同作は、天文学者・星野博士の息子であるテン太郎、猫のニャン子、犬のピチ君がロケットで火星へ行き、運河や都市を訪れるストーリーだ。横井福次郎『ふしぎな國のプッチャー』(四八)は二十一世紀の物語。科学者のペッチャー博士が十万馬力の人造人間ペリーを作り、博士の息子プッチャーとペリーが月や火星を冒険する。小説家になる前の小松左京が『怪人スケレトン博士』(四八/小松實名義)、『イワンの馬鹿』『大地底海』『ぼくらの地球』(四九/モリ・ミノル名義)などのマンガを描いたのもこの頃だ。狭義のマンガとは別物だが、小松崎茂の絵物語『地球SOS』『火星王国』(四八)も同時期に刊行されている。
 手塚治虫は『ロスト・ワールド 前世紀(地球編/宇宙編)』(四八)、『メトロポリス 大都会』(四九)、『ネクスト・ワールド 来るべき世界(前編/宇宙大暗黒篇)』(五一)からなる〈SF三部作〉を著した後、宇宙人との共存がテーマの『アトム大使』(五一)を発表した。同作のキャラクターを転用した『鉄腕アトム』(五二)は、六三年に始まった日本初のテレビアニメシリーズでも人気を博している。五四年開始の『火の鳥』は八八年刊の〈太陽編〉まで続く著者のライフワーク。手塚のSFマンガは枚挙に暇がないが、とりわけ少年向け作品のクオリティは特筆されるべきだろう。
 藤本弘と安孫子素雄のコンビである藤子不二雄の初単行本『UTOPIA 最後の世界大戦』(五三/足塚不二雄名義)では、科学至上主義のディストピアや人類とロボットの争いが描かれた。手塚の影響は明らかだが、後の作風に繋がるものは随所に窺える。著者の唯一の描き下ろし単行本であり、用意した扉絵が使われず、勝手に彩色が施され、別人の手によるコマが足された――という時代を感じさせる逸話も有名だ。
 前谷惟光の代表作『ロボット三等兵』(五五)は、五七年までに十一冊の貸本が発行された後、五八年から六二年まで『少年クラブ』に連載された。トッピ博士の開発した人型ロボットが陸軍三等兵として騒動を起こすコメディだが、従軍経験を持つ著者の風刺には独特の味わいがある。
 当時の最大のヒット作としては、横山光輝『鉄人28号』(五六)を挙げるのが妥当だろう。少年探偵・金田正太郎は日本軍の残した巨大ロボットを操り、開発者の敷島博士、敏腕警官の大塚署長、ギャングの村雨健次らと協力して悪を討つ。リモコンで動く鉄人のイメージが強いものの、本筋はハードボイルド色が濃い探偵譚だ。
 高野よしてる『13号発進せよ』(五九)は『週刊少年マガジン』創刊号の巻頭作品。世界的な発明家である江戸川博士の息子・京太郎は、父の開発した巨人型ロボット〝13号〟をリモコンで操り、宇宙生物、マッドサイエンティスト、海中人などを退治する。実在人物のパロディが頻出するなど、雰囲気は『鉄人28号』とは大きく異なるものだった。

(中略)

 一〇年代にマンガの環境は大きな変化を遂げた。同人作家はサイトに作品を載せ、出版社はウェブ雑誌を配信し、読者は新たな描き手を見つけやすくなった。先鋭的なセンスが目立つ状況はSFマンガにとって好ましいものだ。詩野うら『有害無罪玩具』(一九)と『偽史山人伝』(一九)は、サイト掲載作を中心にした短篇集。販売停止になった玩具類が人間の認識を揺さぶる話、ヒトに似た絶滅生物の記録など、アイデアと思索的な語りを一体化させた佳篇揃いである。
 肋骨凹介『宙に参る』(一九)はウェブ雑誌で始まったデビュー作。コロニー技師の鵯宇一が病死し、天才エンジニアの妻ソラと息子の宙二郎(人工知能を搭載したロボット)は、遺骨を義母に届けるために長期渡航船で地球へ向かう―― という「空想科学父方実家帰省奇譚」である。旧友との再会や観光を楽しむソラ、魔女と称されるソラの技術を狙う組織などを配し、オリジナリティの強いプロットを進める手つきが好ましい。
 迷子のデビュー作『プリンタニア・ニッポン』(一九)もウェブ雑誌から誕生した。生体プリンタが作った〝もっちりとした新種生物〟プリンタニア・ニッポンと、その飼い主の一人である地形設計士・佐藤の平和な日常譚だが、その奥には精神支配や評価システムを伴うグロテスクな管理社会が垣間見える。雰囲気の違うレイヤーを重ね、独創的な世界を象った個性的な作品だ。
 駆け足でタイトルを挙げてきたが、これがSFマンガ史の一片に過ぎないことは明らかだろう。冒頭にも記したように、編者の目的は「有用な起点を示すこと」にある。本書が好きな作品に出逢うきっかけになることを願ってやまない。




【編集部付記:本稿は『SFマンガ傑作選』に収録されている「SFマンガ史概説」からの一部抜粋です。】



■福井健太(ふくい・けんた)
 1972 年京都府生まれ。早稲田大学第一文学部卒。書評家。小説とマンガのレビューを多数手掛け、2013 年に『本格ミステリ鑑賞術』で第13 回本格ミステリ大賞【評論・研究部門】を受賞。著書に『本格ミステリ漫画ゼミ』などがある。