国内のほうでは大きな復刻企画がはじまっていて、『占領前期「宝石」 復刻版』(三人社 50000円+税)は戦後の代表的な探偵小説誌《宝石》の創刊から昭和24年末までの号をリプリント復刻するものです。全3回配本の予定で、初回配本では23年4月号までと、号数でみると半分ほどまで復刻されるのですが、創刊からしばらくの号はそれだけ頁数が少ないのだということですね。


 版元の三人社はこういったリプリント復刻を手がけてきていて、《「ミステリ雑誌」シリーズ》として戦後の雑誌では既に《黒猫》《妖奇》を復刻しています。今回ついに探偵小説誌の本丸ともいえる《宝石》復刻に取り掛かるということで、原紙の劣化が激しい雑誌を綺麗な復刻版で読めるというのはたいへんありがたい。名作の初稿にあたるというだけでなく、時評やエッセイ、囲み記事などから時代を感じ取るのが原典にあたる醍醐味(だいごみ)だと思います。

 例えば戦前の《新青年》関連研究には本の友社の復刻版が少なからず寄与したはずで、今回の復刻も新たな研究の足がかりになることを期待します。なお今回の復刻に続いて『占領後期』の企画もあるそうで、昭和27年までの《宝石》が読めることになりそうです。

〈異色短篇傑作シリーズ〉からは生島治郎『頭の中の昏(くら)い唄』(日下三蔵編 竹書房文庫 1300円+税)が出ています。怪奇幻想・SF分野の第1短篇集『東京2065』と第2短篇集『あなたに悪夢を』を併せた復刊です。

 生島が手がける〈奇妙な味〉の短篇嗜好(しこう)とその実作の巧さは、早川書房の編集者時代に《異色作家短篇集》編纂に携わった経験などに因るという解説の指摘は膝を打つものです。集中では特に、表題作や「夜歩く者」といった、生島自身の過去の経験を投影しているような導入から、次第に自我がゆらいでいく作がすばらしい。

 そうかと思うとSF設定の軽ハードボイルド連作「東京二〇六五」のような作もさらりと書いてしまうのですから、本当に短篇巧者ですね。生島の復刊は本領のハードボイルド以外の分野が続いていますが、創元推理文庫から近刊の〈日本ハードボイルド全集〉で紹介が予定されているそうなので、楽しみに待ちたいと思います。

 最後に珍しい復刊企画をひとつ、岡田晋吉編『ノベライズ 太陽にほえろ!』(ちくま文庫 900円+税)は往年の人気刑事ドラマ「太陽にほえろ!」の放送当時に発行されていたノベライズ単行本から、松田優作演じるジーパン刑事殉職までの初期作のうち10篇を選んだもの。編者は「太陽にほえろ!」など日本テレビの刑事ドラマの多くを手がけたプロデューサーです。

「太陽にほえろ!」ノベライズは主要回を網羅して、ドラマの最終回間際まで続いた充実したものです。手軽に録画を確認できる時期でなく、台本から小説化をはかったといわれますが、そのためかスピード感があってすらすらと読まされてしまいます。更なる復刊というのは難しいでしょうが、「相棒」など現代のノベライズ物を楽しんでいる方にはおすすめしたい一冊です。