好評発売中! 全作品書き下ろしSFアンソロジー第4弾『Genesis  時間飼ってみた』の序文を公開いたします。

刊行記念トークショーの模様は下記からご覧いただけます。







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Genesis 時間飼ってみた  創元日本SFアンソロジーⅣ
    

はじめに
    東京創元社編集部 小浜徹也

 全作品書き下ろしSFアンソロジー《Genesis》最新集をおとどけします。
 前集『されど星は流れる』から一年以上刊行の間があいてしまいましたが、参加作家の皆さんには、これまでにも増して傑作力作をお寄せいただきました。
 この《Genesis》は毎回、「収録作品中もっともかっこいい作品名を表題とする」という趣旨でタイトルを決めてきましたが、今回は宮澤伊織(みやざわいおり)さんの「時間飼ってみた」になりました。はたしてかっこいいのでしょうか。インパクト絶大には違いないのですが。
 時間を飼う、ってどういうこと? いや、ひきこもりの若いマッドサイエンティストが、文字どおり、こっそり時間を飼っているのです。SFの純粋な楽しさ面白さが凝縮されています。
 他の収録作を順にご紹介します。
 巻頭の小川一水(おがわいっすい)「未明のシンビオシス」は、大災害後に人口が激減したものの、なんとか崩壊をまぬがれた近未来の日本を縦断するロードノベル。またAIのありかたについて考察する本格SFです。
 川野芽生(かわのめぐみ)「いつか明ける夜を」は、凝った語りでつむがれる神話的幻想SF。舞台となっているのは、天に昇っては沈む月だけが地上を照らす、色のない世界。注目の新進歌人による入魂の一作で、本集でも重量級の作品と言えます。
 宮内悠介(みやうちゆうすけ)「1ヘクタールのフェイク・ファー」。平凡な日本人のあなたが、気がついたら東京ではなく地球の裏側ブエノスアイレスにいたら? そもそもそんなことがありえるのか。それでも日々は過ぎていく。宮内さんの真の持ち味が横溢する逸品です。
 小田雅久仁(おだまさくに)「ラムディアン・キューブ」は著者久々の新作。スティーヴン・キング『アンダー・ザ・ドーム』を思わせる異常状況下に置かれた男女を軸に、物語は途方もない方向にエスカレートします。
 高山羽根子(たかやまはねこ)「ほんとうの旅」は、語り手が寝台列車で乗り合わせた旅人と会話を重ねていくエッセイ風の話。ここにつづられる思索こそ、高山さんにとって旅そのものであるかのようです。
 巻末には、今年四月に決定した第十二回創元SF短編賞の正賞・優秀賞受賞作を掲載しました。どちらも諸先輩作家の作品に肩をならべ得る、読みごたえのある傑作です。
 正賞の松樹凜(まつきりん)「射手座の香る夏」は、北海道で起こった奇妙な行方不明事件と、人間の意識を動物に転送させる禁断の遊びに興じる若者の人生が交わる、緊迫感あふれるアクションSF。
 優秀賞の溝渕久美子(みぞぶちくみこ)「神の豚」は、家畜インフルエンザに見舞われた台湾を舞台に、「兄貴が豚になった」と打ちあけられた末の妹の日常を、ユーモラスかつ淡々とした味わいで描きます。
 タイプこそまったく異なりますが、どちらも若い女性を主役に据え、家族性をモチーフとする清新な青春小説です(いま気づきました)。お二方の今後の活躍に是非ともご期待ください。
 また創元SF短編賞について、鈴木力さんに賞の歩みを概括していただきました。創設から現在までの全受賞作と佳作・優秀賞作品をレビューしています。歴史がひとめぐりしたいま、新しいSF読者のかたに向けて、改めてご紹介する必要を感じた次第です。今後も日本のSFシーンに欠かせない賞でありつづけたいと願っています。

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