【書店員の皆さまから応援コメントを頂きました!】

「最後の最後まで、わかりそうでわからない。まさに本格ミステリ! 知らない時代の知らない町なのに、馴染みがあるようで、それでいて新しいミステリ体験にワクワクしました。」
東京旭屋書店新越谷店 猪股宏美さま

「今までになかったミステリー! めちゃめちゃ面白かったー!! 謎解きは誰がするのだろうかと思っていたら、当事者たちの伝聞で解いてしまう名探偵が全て解き明かしてくれて大団円! 時代に合った因縁による殺意、あちこちに見られる探偵小説のオマージュ、船場言葉、個性豊かな大鞠百薬館の人々…この物語の魅力を私の言葉では伝えきれない!多くの人に是非読んで欲しい!」
ジュンク堂書店名古屋栄店 西田有里さま

「最初から最後まで一気読みして、すごいものを読んでしまった、と思いました。船場を舞台にした、とある一族を襲う連続殺人事件。船場の発展と衰退と同時に描かれる殺人事件はどれも、そんなまさか、と思わせる奇妙なものだけれど、その後の謎解きがとても美しく完璧であり、またとても物悲しい。長い頁数、ぎっしりと詰まった「探偵小説」。そして避けられない「戦争」の描写。とても良くまとまった一冊で、謎解き後は絶対、と言えるほど二度読みしたくなる傑作でした。また、船場言葉と言われる表現がとても自然にすうっと入ってきて、当時の息遣いを感じられるかのようなリアリティでした。」
田村書店吹田さんくす店 村上望美さま

「一族を襲う連続殺人。まるで横溝正史のミステリのような異様な殺害現場に謎が深まる。上下二段組の長編に気合いが入りましたが、次々と切り替わる展開に一気読みでした。戦時下のどさくさに紛れて、うやむやに眠っていた秘密が明かされていく様は圧巻でした。」
未来屋書店大日店 石坂華月さま

 戦前まで商都・大阪の中心地として栄華を誇った船場。証券、銀行、繊維、薬問屋、化粧品に小間物といった“高級”な商いが集まるこの土地では、独自の言葉遣いや習慣が育まれ、他の土地にはない魅力がありました。しかし、それらの貴重な文化は、昭和二十年(1945年)の大阪大空襲によって、文字通り灰燼に帰しました。
 関西にあまり縁のない人々が、大阪・船場という地名を知る機会は、たいてい谷崎潤一郎『細雪』ではないかと勝手に思っておりますが、たとえこの地名にピンとこなくても、充分に物語を楽しんでいただけること請け合いです。
 大阪の商売人の家、しかもその長男に嫁入りしたのは東京出身の陸軍軍人の娘・美禰子。嫁ぎ先は夫の祖母、「お家(え)はん」とよばれるゴッドマザーが仕切っており、義両親は跡取り娘である高圧的な「御寮人(ごりょん)さん」と、その尻に敷かれる入り婿の「旦(だん)さん」、そして意地悪な小姑として振る舞う義妹「嬢(いと)さん」という、「大鞠家の一族」の濃すぎる面々が繰り広げる人間ドラマだけでも大変な読み応えがあります。そこに番頭、手代、丁稚、女子衆(おなごし)と呼ばれる多数の使用人が加わり、古式ゆかしい邸宅が舞台となる――まさに関西版『レベッカ』ともいうべき、“家”の力が支配する魔的な空間の中で、様々な惨劇が発生します。
 家内で立て続くこの異常事態を、美禰子はもう一人の義妹である女学生の「小嬢(こいと)さん」こと文子、そして偶然再会した女学校時代の親友で医師見習いの西ナツ子の力を借りて解決しようと奮闘します。
 また、上記の面々以外にも、結婚後まもなく出征することになった生真面目で朴訥とした美禰子の夫・多一郎、その弟で兄より先に徴兵された探偵小説家を夢見る茂彦の兄弟もまた、重要な役割を担います。
 著者自ら「正調お屋敷一家一族連続殺人本格探偵小説」と謳った入魂の傑作長編、秋の夜長にじっくりお楽しみください。                            
                    
 ――以下はまったくの余談です。
 かつて担当編集者の実家は、戦前は錦糸町という下町で銭湯を営んでいました。終戦間際には五歳だった父の話によると、ある日銭湯の屋根の上で小僧さん(関西で言うところの「丁稚どん」ですね)と並んで空を眺めているときB29が襲来し、日本の戦闘機が撃墜されるところを目撃したそうです。そのとき小僧さんは、咄嗟に父の襟首をつかんで屋根を滑り降り、近くの防空壕へと飛び込んで父の命を救ってくれました。この小僧さんの活躍なかりせば、私も今キーボードを叩いて、こうやって文章を書くこともできなかったかもしれません。
 その後銭湯は空襲によって全焼し、父は本好きの兄とともに富山に疎開、戦後もしばらく東京に戻ることは叶いませんでした。ちなみに、同じく東京から逃げ延びてきた若い夫婦から、伯父は「探てい小説」というものを教えてもらい、その後江戸川乱歩も編集長をつとめたとあるミステリ雑誌の編集者となるのですが、それはまた別の話ということで。