倉知淳『月下美人を待つ庭で 猫丸先輩の妄言』(東京創元社 1800円+税)は、じつに15年ぶりとなる〈猫丸先輩〉シリーズ待望の新作短編集だ。

 米国副大統領来日講演を控える区民ホールの前で、電光看板の底面にアルファベットが羅列(られつ)された謎のメモが貼られていることに気づいてしまった編集者(「ねこちゃんパズル」)。

 オカルト雑誌の心霊写真コーナー“恐怖の一枚”に送られてきた、中年男が立っているだけのちっとも怖くない写真のおぞましい理由(「恐怖の一枚」)。

 想いを寄せるバイトの先輩からラジオ番組の公開収録に呼ばれた学生が、始まるまでの手持ちぶさたを紛らわせるため、客席で語り始めた奇妙な贈り物について(「ついているきみへ」)。

 台風接近により大荒れの浜辺で、海の家のアルバイトが見つけた、桟橋(さんばし)から荒れ狂う海へ向かって続いている足跡は、いったい誰のものなのか?(「海の勇者」)。

 亡き母が開花を愉しみにしていた月下美人の鉢を置いている庭に、なぜか夜になると見知らぬ人間たちが悪気もなく不法侵入を繰り返す原因とは?(表題作)

 これら5つの謎を、小柄な身体に黒い上着をぞろっと羽織った、まん丸い目のおなじみ猫丸先輩が、今回もたちどころに解き明かしていく。それぞれに予想もしなかった絵柄が浮かび上がる様は、手際のよい練達の業(わざ)を見るような気持ちよさがある。なかにはシリアスでダークな真相もあるが、最後に「なあんてね」とばかりにひょいと物語のトーンをいつもの感じに戻してしまう愛嬌ぶりがいかにもこのシリーズらしい。猫丸先輩に令和の世はいささか過ごし難そうな気もしてしまうが、これからも変わらぬ奇人ぶりで読み手の頬を弛(ゆる)めていただきたいものである。

 1980年代生まれ、東京創元社デビューの新鋭5名の作家が腕を競ったアンソロジーから10年。『放課後探偵団2 書き下ろし学園ミステリ・アンソロジー』(創元推理文庫 720円+税)は、青崎有吾、斜線堂有紀、武田綾乃、辻堂ゆめ、額賀澪(ぬかがみお)といった1990年代生まれの若き作家たちの持ち味を活かした作品が彩(いろど)り豊かに詰め合わせされた贅沢(ぜいたく)な一冊だ。

 5つの短編を通読すると、もはや学園ミステリとは“学園”という閉じた世界の話ではなく、いま若者たちが対峙(たいじ)し、背負うものもより大きく重くなっているように思えてならない。ここに収められた物語を「自分たちの物語」と受け止めている少年少女のために、5名の作家陣にはいっそうの健筆を振るっていただきたいと切に願う。

 さて、船橋(ふなばし)の売り場からお届けして参りました当コーナーも今回でひと区切り。長らくのご愛読への感謝とあわせ、この場をお借りして東京創元社のみなさまに心より御礼を申し上げます。ありがとうございました。またお目に掛かりましょう!