飛び道具的なアイデアが盛り込まれているが、読み手をむやみに謀(たばか)るような意地の悪さはない。方丈貴恵『孤島の来訪者』(東京創元社 1800円+税)は、「正々堂々」という言葉がふさわしい、ぴしりと筋の通った長編本格ミステリだ。


 第29回鮎川哲也賞を射止めたデビュー作『時空旅行者の砂時計』同様、竜泉(りゅうぜん)家の一族が物語に絡んでいるので、シリーズ第2弾という位置づけだが、本作から手を伸ばしていただいても問題ない。

 鹿児島県の南方に浮かぶ幽世島(かくりよじま)は、落雷があった際に行なわれる秘祭と財宝伝説、そして45年前に大量殺人事件が起きたことで、知るひとぞ知るいわくつきの島だ。

 テレビ制作会社のADである竜泉佑樹は、特番の撮影クルーの一員としてこの島を訪れるが、彼には仕事よりも重大な目的があった。幼馴染(おさななじみ)を死に追いやった憎き人間たちへの復讐だ。ところが、虎視眈々(こしたんたん)とその機会を狙っていると、あろうことか手に掛けようとしていた三人のうちのひとりが殺されてしまう。先回りして犯行に及んだのは誰か? 佑樹は常識では考え難いけれどそれしかない、あることに確信を抱く。逃げ場のない孤島で始まった息詰まる犯人探し。すると、さらに第二の殺人が……。

『時空旅行者の砂時計』では、そのタイトルからもおわかりのように「タイムトラベル」が扱われていたが、今回もあるSF的な要素が盛り込まれており(船の名前にニヤリ)、それが特殊設定ものとしての本作における重要な役割を果たしている。45年前の惨劇をヒントに現在進行形の事件と向き合う展開はスリリングで読ませるが、それ以上にご注目いただきたいのはフェアプレイの徹し方だ。

 今回も物語の後半には“読者への挑戦”が用意されており、それが「いささか親切過ぎでは?」と思ってしまうほど謎解きの要点を明確にした内容で(この難易度の設定の巧(うま)さよ!)、自分の頭で推理を組み立て、著者との真剣勝負を大いに愉(たの)しみたい向きには、年末ランキングを制したアンソニー・ホロヴィッツ『その裁きは死』と同じくらい強くオススメしたい。また、終盤に至っても油断のならない企(たくら)みの底の深さ、そこも拾うのか――という伏線をおろそかにしない目配りにも、著者に対するよりいっそうの好感を覚えた。

 西澤保彦『偶然にして最悪の邂逅(かいこう)』(東京創元社 1800円+税)は、デビュー25周年を迎えたタイミングで刊行された全5編からなる作品集だ。


 住宅の床下に穴を掘り、人骨らしきものを掘り当ててしまったかつての教え子の前に、38年の時を経て幽霊となって現れた高校教師がたどり着く、自分が殺されるに至った真相と、この状況の結末(「ひとを殺さば穴ふたつ」)。

 芸能プロダクションの女社長が帰宅した際、玄関から押し入ってきた男とおぼしき何者かに頭を殴打された事件の真相と複雑な人間関係を、事件の起点をラストシーンにして描く超絶技巧(「リブート・ゼロ」)。

 救急車で病院に担ぎ込まれた男が、15年ぶりに再会したかつての教え子の前で告白する、ある女生徒に操られるがごとく犯してしまった殺人について(「ひとり相撲(ずもう)」)。

 大晦日(おおみそか)の夜に洋風居酒屋へ集まった長年の友人たちが、40年以上前に起きた殺人事件をモチーフにした未発表のミステリ原稿を読んで話し合い導き出した結論と、この原稿に込められた真意(「間女(まじょ)の隠(かく)れ処(が)」)。

 ミステリ作家を相手に談話室で語られる、1970年代に建築設計事務所で起きた殺人事件と廃屋(はいおく)になった旧校舎に忍び込んでの覗き行為が交錯し、思いも寄らない真相が明らかになる表題作。

 いずれも著者ならではの極めてアクロバティックな捻(ひね)りとテクニックが冴え渡る作品ばかりで、加えてユーモアセンスやセクシャルな要素の絡ませ方など、西澤作品に親しんできた向きには「そうそう、これこれ!」といった具合に、改めて積み重ねてきたキャリアを振り返るような愉しみ方もでき、デビュー25周年の節目にふさわしい充実の一冊になっている。