創元推理文庫ではこの4月から、〈日本ハードボイルド全集〉全7巻を刊行開始しました。

日本におけるハードボイルドの歴史――特にその草創期において重要な役割を果たした六人の作家をひとり1冊にまとめ、最終巻となる第7巻は1作家1編を選んだ傑作集とする――本全集は、そんなコンセプトからなる叢書です。収録される作家および作品選定を務めるのは北上次郎、日下三蔵、杉江松恋の書評家三氏。お三方のうちひとりが各巻の責任編集となり、残るふたりがそれをサポートするかたちでの、鉄壁の布陣となります。

このたび第2回配本として発売された第6巻は、稀代の職人肌にして粋人作家・都筑道夫の巻。これまで多くの都筑作品の復刊に尽力している日下三蔵氏が責任編集となり、私立探偵が主人公となる連作短編集2作を合本の形で収めました。

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『酔いどれ探偵』(連作短編集)
 「背中の女」
 「おれの葬式」
 「気のきかないキューピッド」
 「黒い扇の踊り子」
 「女神に抱かれて死ね」
 「ニューヨークの日本人」
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『二日酔い広場』(連作短編集)
 「風に揺れるぶらんこ」
 「鳴らない風鈴」
 「巌窟王(がんくつおう)と馬の脚」
 「ハングオーバー・スクエア」
 「濡れた蜘蛛の巣」
 「落葉の杯」
 「まだ日が高すぎる」

『酔いどれ探偵』は警察小説〈87分署〉シリーズでおなじみのエド・マクベインがエヴァン・ハンター名義で書いた(書籍刊行時に作中の主人公と同じカート・キャノン名義に変更)私立探偵小説、『酔いどれ探偵街を行く』のパスティーシュ(贋作)です。都筑が雑誌〈マンハント〉でこのシリーズの翻訳を手がけたところ、訳文こみで大評判となったため、著者エージェントの了解を得てその続編を一冊分書いたという、いわくつきの作品。主人公の名前こそカート・キャノンから「クォート・ギャロン」に変わっていますが、本編といっさい変わらぬ名調子は、マクベイン本人が読んでも迷わずお墨つきを与えたであろう至芸の域に達しています。冒頭に置かれた「おれか? おれはなにもかも失って、おちぶれはてた私立探偵だ。」で始まるイントロダクションでシリーズの基本設定は押さえられますので、『酔いどれ探偵街を行く』を読んでいないかたでも支障なくお読みいただけます。

かたや『二日酔い広場』は1970年代後半の東京を舞台にした連作短編集で、水道橋に事務所を構える元刑事の私立探偵・久米五郎が、浅草や神田など、都内のさまざまな街で起こる事件と対峙します。抑制のきいた筆致で描かれる、いぶし銀の作品で、あわせて読むと都筑道夫という作家の引き出しの多さを実感できることでしょう。

今回も巻末には書き下ろしエッセイと解説を収録しました。本巻のエッセイは香納諒一先生によるもの。作家になる前は編集者であった香納先生に、その当時担当として接した作家・都筑道夫との貴重なエピソードを語っていただきました。解説は責任編集を務めた日下三蔵氏が担当します。

そして第3回配本となるのは第2巻の大藪春彦『野獣死すべし/無法街の死』。伝説のデビュー作「野獣死すべし」をはじめとする初期長短編の傑作を収め、大藪ハードボイルドの世界を俯瞰する一冊となります。今年10月刊行予定ですので、どうぞお楽しみに。

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〈日本ハードボイルド全集〉全7巻◎創元推理文庫
北上次郎・日下三蔵・杉江松恋=編

  収録作品=『死者だけが血を流す』「チャイナタウン・ブルース」「淋しがりやのキング」「甘い汁」「血が足りない」「夜も昼も」「浪漫渡世」
  巻末エッセイ=大沢在昌/解説=北上次郎
2 大藪春彦『野獣死すべし/無法街の死』
  収録作品=「野獣死すべし」『無法街の死』「狙われた女」「国道一号線」「廃銃」「乳房に拳銃」「白い夏」「殺してやる」「暗い星の下で」
  解説=杉江松恋
3 河野典生『他人の城/憎悪のかたち(仮)』
4 仁木悦子『冷えきった街/緋の記憶』
5 結城昌治『幻の殺意/夜が暗いように(仮)』
  収録作品=『酔いどれ探偵』全編/『二日酔い広場』全編
  巻末エッセイ=香納諒一/解説=日下三蔵
7 傑作集