移動図書館とは読んで字のごとく移動する図書館のことで、図書館を利用しづらい地域の人々のために、本を載せたバスが訪れます。
その巡回先で待っている様々な利用者とささやかな謎を描いた、心あたたまる短編集となっています。
まずは各編をご紹介いたします。
本は峠を越えて
家族の希望で縁もゆかりもない土地で一人暮らすことになった節子。慣れない町で移動図書館を見かけた事をきっかけに、本と共にあった彼女の半生を回想していく。
ほかのお話にも共通して言えるのですが、これまで自分が読んできた本がたくさん出てくるので、そのたびに嬉しくなってしまいます。特にこの話では、一人の人生を振り返るので色々な年代の人に刺さる作品が登場します。『ぼくを探しに』はあまり絵本を買わない私ですが、この話出てきて久しぶりに読みたくなり買いなおしました。
昼下がりの見つけもの
偶然にも失くしたはずの十八年近く前に図書館で借りた本を見つけた優也。なぜこんなものが家にあるのか……ふと「めぐりん」で疑問を口にしたことをきっかけに、当時の出来事が明らかになっていく。
冒頭で名前が挙がる『安楽椅子探偵アーチ―』は喋る安楽椅子が探偵役の異色の“安楽椅子探偵”ものです。大人ももちろんですが、子どもにもミステリの入り口としてお勧めしたい一冊です。
リボン、レース、ときどきミステリ
派遣社員として働きつつ、趣味の手芸に力を入れている佳菜恵は、二週間に一度の「めぐりん」の巡回日を息抜きにしていた。ある日見知らぬ男性社員に声を掛けられ、一緒に食事をすることになる。彼はミステリ好きで、佳菜恵のこともミステリが好きで「めぐりん」に通っていると勘違いしているようだが……?
話を合わせるために移動図書館のスタッフにおすすめを聞き、少しづつミステリの面白さに目覚めていく佳菜恵さん、健気です。
その中の一冊『ジェリーフィッシュは凍らない』シリーズ最新作が先月ついに文庫化されました! 佳菜恵さん、ぜひ読んで!
団地ラプンツェル
めぐりんのステーションで60年ぶりに友人と再会を果たした征司。次の巡回日にまた会おうと約束したものの、友人は現れなかった。連絡先を聞かなかったことを後悔する征司だったが、そこへ二人の小学生が「あのおじさんの部屋を知ってる」と話しかけてきて……。
小学生の引っ越しって学区が変わるだけでももう会えなくなるという感覚だったなあと、ノスタルジックな気持ちになりました。そういえば私も彼らと同じ年のころ、『向日葵の咲かない夏』を読んでミステリに夢中になったのだと、しみじみしてしまいました。
未来に向かって
小学生のころの移動図書館「ほんまる」と担当司書との出会いがきっかけで司書を志した典子。紆余曲折を経て司書になった彼女は、「ほんまる」の廃止とそれにかつての担当司書が関わっていることを知る。そして、「ほんまる」廃止について調べていくうちに、その担当司書の思惑も明らかになっていく。
本作中、私が一番お気に入りの一編です。図書館司書になる道のりの困難さと、それゆえか職務や図書館が果たすべき使命に熱い人が多いのだろうと思わされます。日頃お世話になることが多い仕事ですし、改めてその専門知識や本への愛情に尊敬しなおすきっかけになりました。
また、ゲラをお読みいただいた書店員さんからも熱いコメントを頂いております! その一部をご紹介させていただきます!
それまであまり読んでこなかった方や、実用系中心で物語系に親しみがなかった方、以前は読んでいたが生活に追われ離れていった方、年齢もさまざまでさらに娯楽として、知識として、思い出としてと関わり方も千差万別。そこかしこに本への愛が詰まっています。謎解き要素も思わぬところからの角度で導かれ驚きと同時に心地よく感じます。
明林堂書店 南宮崎店 河野邦広さん
人生が巡り、本が巡り、世界が巡る。移動図書館の歴史は知識を伝える愛だった! 図書館は進化し続ける、本を届けるために。セピア色のバスめぐりんを私も一緒に待ちたいです。
うさぎや矢板店 山田恵理子さん
謎といっても明るいものばかりではなく、心の底に傷となって潜んでいた悲しい出来事も浮上してくるのだが、めぐりんを取り巻くあたたかいスタッフさんをはじめとした人々のおかげで前に進める。このあたたかい作品がとても大好き。
宮脇書店 ゆめモール下関店 吉井めぐみさん
本の数だけ出逢いがあり、思い出がある。そんなあれこれを読んでいる私も幸せになれる。このシリーズ、ずっと続いて欲しいです。
文真堂書店 ビバモール本庄店 山本智子さん
そしてシリーズ第一弾『本バスめぐりん。』も文庫で好評発売中です!