じつに7年ぶりの長篇ということで期待値マックスでページをめくり、大満足の状態で本を閉じた。山本文緒『自転しながら公転する』(新潮社 1800円+税)のことである。


 東京のアパレルに勤務していた与野都は、重度の更年期障害に悩む母親の面倒を見るように父から頼まれ、茨城県、牛久(うしく)の実家に戻り、今は地元のアウトレットモールの女性向けファッションの店に勤務している。32歳の今、地元の友人は結婚したり婚活したりと人生の転機を迎えようとしているが、都自身は将来の展望が見えずにいる。そんな折、モールの回転寿司店に勤める貫一と知り合い恋に落ちる。だが彼は経済的に不安定なうえ、都との将来も考えていなさそうな様子。そこに、他にも都に言い寄ってくる青年が現れて……。

 恋愛、仕事、家族、将来のこと。どれも問題山積で、都の心は落ち着かないまま。思いもよらないことが次々起こるなか、自分の意見をはっきり言えない都は何も結論を出せない。周囲には“結婚して家庭を持つことが幸せ”という空気が漂うが、彼女が本当に望んでいることは何なのか。

 エピローグにある、ある人物の「別にそんなに幸せになろうとしなくていいのよ」から始まる一連の言葉が痛切に沁(し)みた。人は生きている限り幸せになりたいと思うものかもしれないが、何が自分にとっての幸せか分からないまま、“幸せにならなくちゃいけない”というプレッシャーを感じることだってあるのではないか。漠然とした“幸せ”ではなく、自分が望むことを模索していくほうが、きっと人生の満足度は違うだろう。そんな前向きな気持ちにさせてくれた。

 幸せの形はさまざまだと思わせるのは金原ひとみ『fishy』(朝日新聞出版 1500円+税)。3人の女友達の話である。37歳の弓子は出版社勤務、既婚で子どももいるが、夫の浮気を疑っている。32歳のユリはフリーのインテリアデザイナーで夫と娘との生活に満足している様子。28歳の美玖はライターで、ずっと片想いの相手が結婚すると知ってショックを受けるが、彼が海外転勤になる前に一夜を共にし、そのことで頭がいっぱい。社会人になってから知り合った彼女たちは、たまに会って食事しながら近況報告をする仲だ。なんでも率直に言い合う仲で、辛辣(しんらつ)なことをぶつけ合う時もあれば、内心相手にむかつくこともある。それでも、困った時に相談を持ち掛けるのはお互い同士だ。
 美玖が件(くだん)の彼の妻に関係がバレて慰謝料を請求されたり、弓子が夫から別の女性と一緒になりたいからと離婚を要求されたり。ユリはユリでまた意外な一面を持っている。心地いいのは、彼女たちが自分のことも友人のことも一般論的で型通りな“幸せ”の形にあてはめてジャッジしないことだ。たとえば、ユリは慰謝料を請求されて困っている美玖について、自業自得とそしることもせず同情もせず、「喜んでいる」という。美玖自身が無意識のうちに状況に酔っていることを見抜いているのだ。

 人が自分の人生に、周囲の人間に、何を望んでいるかなんて曖昧(あいまい)だ。瞬間瞬間で変化していくからこそ、人と人との関係は難しくて面白い。スリリングに読ませつつ、現代的な人生観、恋愛観、家族観についてさまざまなことを気づかせてくれる一冊。