囲碁は、唐の時代に吉備真備によって伝えられたと言われている。奈良時代や平安時代には盛んに打たれていた様子は、『源氏物語』『枕草子』の記述からも窺われる。『徒然草』の百十一段には「囲碁・双六好みて明かし暮らす人は、四重・五逆にもまされる悪事とぞ思うと、あるひじりの申しし事、耳にとどまりて、いみじくおぼえ侍る」とあり、囲碁愛好家としては耳が痛い。

さて当時は互いに予め石を置いて(事前置碁)対局していたようだ。戦国時代末期には、まったく石のない状態から打ち始める(自由布石)ように変わっていったようだ。このために布石という概念が生まれたのだろう。当時の第一人者は日海(後の本因坊算砂)で、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の師であり、後に名人碁所として囲碁界を統括した。

江戸時代には多くの天才が生まれ、手割論や手筋等の多くの研究が進み、隆盛を極めた。明治時代初期には、幕府の扶持がなくなり棋士たちは困窮したけれど、紆余曲折の後、日本棋院が設立され、現在に至っている。昭和に入って、木谷実と呉清源によるスピード重視の新布石も登場した。

さて布石には、秀策のコスミから三連星とか中国流とか、様々な形がある。それぞれ理論的には有力なもので、棋士たちはそれらの形の中で、有利不利を選択して対局していた。つまり布石は中盤に備えるための準備段階と見られていた。布石では互いにゆっくり大きなところを占め合ったあと、それから中盤の戦いが開始される進行が常識的な流れとされていた。それが現代布石である。

ところが人間よりも強いAIの登場でその従来の打ち方が根本から見直されることになった。布石の段階でも関係なく相手の石にツケて、いきなり接近戦が開始されることも珍しくなくなった。中盤の専売特許とされていた打ち込みや攻めの性質を織り交ぜた打ち方をするのがAIの特徴である。

それまでは定石とされていた打ち方でも廃されたものがある。2000年と言われる囲碁の長い歴史のなかで、従来の打ち方や考え方が革新されたことは何度もあった。そのことが囲碁を豊かなものにしてきた。しかしAIの登場による変化は、今までとは段違いである。将に囲碁に革命が起きたようなものである。

AIは強いけれど自分の言葉で語ることは出来ない。どんな意図でその手を打ったのか、人間が調べなければならない。本書は囲碁界のレジェンドと言われるイ・チャンホによるAI探求の布石編である。

本書に登場する布石は、AIによって新たに証明された打ち方について集中的に分析したものである。以前流行した布石と最近流行しているAI布石を比較分析して、アマチュアにも理解できるような構成になっている。本書が棋力向上に役立てれば幸いである。