バカロレア(大学入学資格試験)に落ちた、落ちこぼれ青年グレゴワールは、老人介護施設に就職。そこで、元書店主のピキエ老人と出会います。
 文学を愛するピキエ老人は、居室で本に埋もれて暮らしています。ただ、病気のため自身で本を持って読むことが難しくなっていました。そこで老人はグレゴワールに朗読を頼みました。本になどほとんどふれたこともなかったような青年に。
 戸惑う彼に、まず渡したのはサリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』でした。
 英語の正しい発音など、あとで考えればいい、と言われた彼は恐るおそる読み始めます。 支配層と対立する若者はぼくだ、と思いながら。そして笑いで読めなくもなり……。
 本屋のじいさん・ピキエ老人は、立ち上がろうとしている仔馬を見るようにグレゴワールを見まもります。
 他人の体験を自分のことのように感じられることがあるとは思ってもみなかった。
 これがグレゴワールの初めての読書体験の感想です。読み終えてしまうと。老人の部屋は味けないものになってしまう……。
 でもまだまだ本は山のようにありました。

 こうしてグレゴワールは、今までまったく知らなかった読書の世界に足を踏み入れたのでした。
 朗読のスキルをあげるための肉体改造トレーニングも老人に指導されます!

 著者のマルク・ロジェは公共の図書館などで朗読をする朗読家。その活動で2014年にリーヴル・エブド大賞を受賞しました。
「読書案内はそのまま人生の道案内だった」と帯などに書きましたが、こんな文言は、なんだか教育的なにおいがするのではないか、という不安がありました。
 この作品は、いわゆる教訓的な味わいのものではありません。
 フランスらしい、しゃれたくすぐりも多い、大人の小説とでも言うに相応(ふさわ)しい作品です。それでいて、感動的でもあります(フランス的なくすぐりと感動の共存はなかなかめずらしいかもしれません——私見)。

 ピキエ老人に指定された本を朗読するうちに、他の居室の老人たちも、彼の朗読を聞きたがるようになり、ホールでみんなのために朗読することが始まります。
 そしてある日、老人とグレゴワールはいたずら心からある企みを実行します。
 夜、発禁本を下水管を通して(排水管の工事をしているのを見て思いついたのでした!)他の部屋部屋の人たちにこっそり読み聞かせるという企画です。
 老人たちは大喜び。しかし、堅物の施設長のマダム・マソンは、かんかん。

 グレゴワールは施設の看護師のディアリカと恋仲になり、彼の人生はこれまでとは激変します。そして老人は、実はゲイなのですが、かつての恋人との死別を語り、彼への償いをタトゥーにしていることもグレゴワールに打ち明けます。

 次第に近づいてくる死期を意識した老人は、グレゴワールにある頼みごとをしました。施設から二百キロくらいのところにあるフォントブロー修道院の、アリエノール・ダキテーヌ(ルイ七世妃、のちにイングランドのヘンリー二世妃)の墓所で、本を読む姿で横たわる彼女の彫像に、朗読してやってほしい……というのがその願いでした。 
 フォントブロー修道院の案内がyoutube にあります。アリエノールの、その本を読む彫像もしっかり見ることができます。1分30秒くらいのところで横たわるアリエノール像が見られます。

 

 彫像の胸にあるのは実際は時禱書なのかもしれませんが、老人は文学を愛する妃のためにと、朗読を頼むのでした! 朗読する本は何? 

 そして……。
 ピキエ老人の最後の望みは……?

 本を巡る人と人との邂逅、愛、友情、成長、生と死。
 軽やかに人生のすべてを語る、不思議な魅力を持つ傑作です。

 本は君から他者につながる道だ。そして、君自身にいちばん近い他者とは君なのだから、君は自分につながるために本を読むのだ。自分から逃げるために本を読むのだとしても。一種の自力による他者性の獲得だな。――ピキエ老人の言葉

*雰囲気のある素敵なカバーイラストは、イオクサツキさんによるもの。デザインは中村聡さんです。