みなさまこんにちは。翻訳班の東京創元社Sです。今回はジョン・コナリー『失われたものたちの本』文庫版についてご紹介いたします。
ジョン・コナリーは、1968年アイルランド生まれの作家です。犯罪小説、ホラー、ファンタジーなどさまざまなジャンルの作品を執筆しています。ダブリン大学およびダブリンシティ大学で学んだ後、フリーのジャーナリストとして活動。1999年のデビュー作『死せるものすべてに』はシェイマス賞を受賞したほか、ブラム・ストーカー賞とバリー賞にノミネートされました。
そして2007年に『失われたものたちの本』で全米図書館協会アレックス賞を受賞しています。この賞は「12歳から18歳のヤングアダルトに特に薦めたい大人向けの本」が選ばれるそうです。大人から子供まで、年代を問わずに楽しめるダーク・ファンタジーです。

さて、『『失われたものたちの本』のあらすじは……。

母親を亡くして孤独に苛(さいな)まれ、本の囁(ささや)きが聞こえるようになった12歳のデイヴィッドは、死んだはずの母の声に導かれて幻の王国に迷い込む。赤ずきんが産んだ人狼、醜い白雪姫、子どもをさらうねじくれ男……。そこはおとぎ話の登場人物たちが蠢(うごめ)く、美しくも残酷な物語の世界だった。元の世界に戻るため、少年は『失われたものたちの本』を探す旅に出る。本にまつわる異世界冒険譚。スピンオフ掌編「シンデレラ(Aバージョン)」を収録。

本書は翻訳者の田内志文先生がイギリスの書店で原書に出会ってから、なんと7年間翻訳したいと思い続けていた作品です。その後2015年に単行本を刊行し、おかげさまで何度も重版できた人気作品となりました。2021年に同著者の新作短編集『キャクストン私設図書館(仮)』を刊行することになり、それにあわせて文庫化しました。

第二次大戦下のロンドンから物語ははじまります。病気で母親を亡くした12歳のデイヴィッドは、孤独に苛まれて本の囁きが聞こえるようになったり、幻の王国を見たりしはじめます。そしてある日、庭の沈荘園から異世界へと迷い込んでしまうのです。そこはあらすじにもあるような、物語の登場人物や神話の怪物が実在している世界でした。もとの世界に帰るため、デイヴィッドは『失われたものたちの本』を探して、美しくも残酷な世界を旅していくのです。

文庫版には、本書のスピンオフ掌編「シンデレラ(Aバージョン)」も収録しています。『失われたものたちの本』の世界ではいくつかおとぎ話が語られるのですが、そのなかのひとつだったのかもしれないと思わされる魅力的な作品です。著者の皮肉さや意地悪ぶりがたまりません。こんな「シンデレラ」は嫌だ!と心の底から感じる最高に面白い物語です。

カバー装画は単行本のときと同様に天羽間ソラノさんにお願いしました。今回もすばらしい切り絵で、物語の魅力をあますところなく伝えてくださいました。信じられないほど緻密で素敵な装画をありがとうございました!
装幀は藤田知子さんで、本作も単行本とはまた違った格好良さで仕上げてくださいました。単行本は青地に金色だったのですが、今回は青に銀色という色味がたまらないです。両方並べたくなります。ありがとうございました~!

また、2021年5月には、ジョン・コナリーの新作短編集『キャクストン私設図書館(仮)』を単行本で刊行いたします。こちらはNight Music: Nocturnes Volume 2から4編を抜粋した短編集です。
表題作の「キャクストン私設図書館」は読書好きのバージャー氏が発見した〈キャクストン私設図書館&書物保管庫〉をめぐる物語で、そこは初版本や手稿本が所蔵された図書館であり、人々に広く知れ渡ったがゆえに著者の死後に実体化した物語の登場人物たちの住処でもある……という、たいへん魅力的な図書館が舞台です。アメリカ探偵作家クラブ(MWA)の最優秀短編賞を受賞しています。
『失われたものたちの本』のスピンオフ短編「虚ろな王」のほか、触れた者に次々と怪奇現象が起きる奇書『裂かれた地図書』をめぐる物語など、「本」にまつわるファンタジー・ホラー短編集となっております。
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(東京創元社S)