みなさんこんにちは。翻訳ミステリ班Sです。今回は2月12日に発売した新刊、『ロンドン謎解き結婚相談所』(アリスン・モントクレア著、山田久美子訳)をご紹介いたします! 楽しくて爽快で読みごたえ抜群の新シリーズが登場です!
まずはあらすじを……。

舞台は戦後ロンドン。戦時中にスパイ活動のスキルを得たアイリスと、人の内面を見抜く優れた目を持つ上流階級出身のグウェン。対照的な二人が営む結婚相談所で、若い美女に誠実な会計士の青年を紹介した矢先、その女性が殺され、青年は逮捕されてしまった! 彼が犯人とは思えない二人は、真犯人さがしに乗りだし……。魅力たっぷりの女性コンビの謎解きを描く爽快なミステリ!

本書の主人公の女性コンビは、戦後ロンドンで〈ライト・ソート結婚相談所〉を設立した経営者たちなのです。〈ライト・ソート〉というのは、「ぴったりな」という意味で、帯のキャッチコピーに書いた通り、彼女たちの仕事は「あなたにぴったりの結婚相手をお探しします!」なのです。
冒頭には、主人公たちが〈ライト・ソート〉を尋ねてきた女性の好みや結婚相手に求める条件などを聞いて、希望通りの相手を探す、というシーンがあります。ここがとてもリアルで、物語の世界にグイッと引き込まれました。有能な女性たちのキレのある会話を味わうのが楽しい! 臨場感たっぷりなお仕事ミステリです。

まあ、でも残念ながら結婚相手を探そうと思って相談所を訪ねてきた女性は、何者かに殺されてしまうのですが……。しかも容疑者は自分たちが紹介した会計士の青年! 誠実で絶対に人殺しなんてできるわけがない! と思ったふたりは、事務所の評判も守るため、真犯人を探すことに。

ここで、主人公ふたりのご紹介をしましょう。まずは小柄でブルネット(褐色)の髪、ケンブリッジ大卒の頭脳明晰なアイリス。彼女は戦時中に何やらスパイ活動のスキルを得たらしく、数カ国語に堪能なうえ下町言葉などにも詳しく、別の人格に成り済ますことができます。格闘術などにも優れた格好いい女性です!
一方のグウェンは、まさに絵に描いたような上流階級出身の女性。金髪ですごく背が高く、素敵なシルクのスーツを着こなしています。戦争で貴族の夫を亡くし、小さい子供を抱えながらも義理の両親の家では非常に居心地の悪い生活を送っています。しかし人の内面を見抜く鋭い目を持ち、話している相手にきっちり向き合い、心を動かしていく力の持ち主です。

いわゆるアラサーの彼女たちは共通の友人の結婚式で知り合い、意気投合して結婚相談所を設立しました。戦争でめちゃめちゃになった社会に、明るい希望をもたらすために日々頑張っています。そして仕事や今回の事件を通して、彼女たちはお互いに秘密にしていたことにも向き合い……。これ以上はぜひ本書を読んでいただければと思いますが、ミステリとしての面白さはもちろん、女性同士の友情の物語としてもとてもおもしろいです!

さて、そんな魅力たっぷりの物語を書いた著者は一体どういう人物なのか……? 気になるところですが、なんと覆面作家らしく、情報がありません!! わかっているのは、「アガサ・クリスティのペーパーバックと、ジェームズ・ボンドものの映画にのめりこんで育った結果、犯罪小説やスパイ小説に夢中になり、現在は史実の謎めいた断片から着想を得て小説を執筆している」ということだけ。うーん、ミステリアスで気になる! でも著者のインタビューなどからは、この小説を書いたきっかけが分かります。

ある日著者は編集者とのランチの最中に、一冊の本を薦められたそうです。それは1939年のロンドンで結婚相談所をひらいた女性たちのノンフィクションでした。ミステリの題材にぴったり、と思って著者に本を渡した編集者、すごいな……。見習わねばと思いました。

ちなみに以下の動画では、ロンドンのメイフェアに実際にあった、女性経営者の結婚相談所の様子が分かります。本書の雰囲気にも近いと思います。素敵なお仕事ぶりですね~!

Marriage Bureau (1939)


この映像について教えてくださったのが翻訳者の山田久美子先生です。作品をすごく気に入って、すばらしいお仕事をしてくださいました。戦後ロンドンが舞台、ということで、社会についての調べ物もすごく多かったでしょうし、女性キャラクターが多いので訳し分けも大変だったことと思います。
そしてなんと、校正紙を返送してくださったときに、作中に出てくる香水「夜間飛行」を袋にひと吹きしてくださったんです!! 袋を空けた瞬間に立ち上る上品でなんともいい香り……。しばらく堪能しました~! お心遣いに感激しました。

本書の素敵なカバーイラストを描いてくださったのは、広告、雑貨、ステーショナリーなどさまざまな分野で活躍するイラストレーターの亀井英里さん。大人可愛い〈ライト・ソート結婚相談所〉を描いてくださいました。アイリスとグウェンのイメージがまさに作品から抜け出してきたようですし、ライト・グリーンの壁紙やカーテンの色もお洒落! 大好きなカバーです!!
装幀はnext door designの岡本歌織さんにお願いいたしました。亀井さんをご紹介くださっただけでなく、細かいところにまで的確なアドバイスをくださり、大変お世話になりました! タイトルロゴ、めちゃめちゃ素敵です!

というわけで、さまざまな魅力のあるお仕事ミステリをどうぞよろしくお願いいたします!
実はこの作品、すでにシリーズ2巻目の刊行も決定しております。2021年の秋にはお届けできる予定です。アイリスとグウェンの謎解きと活躍をどうぞお楽しみに!

(東京創元社S)