アン・クリーヴスのペレス警部シリーズ最新刊『地の告発』が11月28日に発売されます。
ということで、この記事では本シリーズの成り立ちについて簡単にご説明いたします。
まず、2006年に発表した『大鴉の啼く冬』で、クリーヴスは栄えある英国推理作家協会(CWA)の最優秀長編賞を獲得します。イギリス最北端に位置するシェトランド諸島を舞台に、島で暮らす人々の重厚な描写と、堅牢な謎解きを両立させた内容が評価されての受賞でした。
じつはこの『大鴉の啼く冬』を単発作品のつもりで書いたクリーヴス。しかし評判もあってか、探偵役を務めた島の警察官ジミー・ペレス警部を主人公に、続編が執筆されます。それが〈シェトランド四重奏〉The Four Seasons Quartetという四部作になりました。いずれもすぐれた現代本格ミステリとして、本国イギリスのみならず日本でも好評を博しています。
Raven Black『大鴉の啼く冬』
White Nights『白夜に惑う夏』
Red Bones『野兎を悼む春』
Blue Lightning『青雷の光る秋』
こうして2010年には四部作を完結させたものの、シリーズの人気は根強く、著者としてまだまだ書きたいテーマもあったのでしょう、クリーヴスは2013年から新たな長編四部作をThe Four Elements Quartetと銘打って始めました。こちらも謎解きとしてどれも一級品で、今回翻訳された『地の告発』はこのうちの一作です。
Dead Water『水の葬送』
Thin Air『空の幻像』
Cold Earth『地の告発』
Wild Fire(創元推理文庫近刊)
したがって『地の告発』は四部作の3作目かつ、全8作あるシリーズの7作目という少々複雑な立ち位置の作品なのですが、作中で起こる殺人事件はいずれも各巻で解決を見ますので、ミステリとして楽しむのはいきなりこの作品からでも問題ありません。
この『地の告発』はシリーズでも有数のど派手な始まり方をする作品です。ペレス警部が旧知のマグナス老人(『大鴉の啼く冬』で重要な役割をはたす人物ですので、気になるかたはあわせてどうぞ)の葬儀に参列していると、巨大な地滑りが突然発生し、墓地と近くの農場が巻きこまれる惨事になります。周囲の被害状況を確認すると、土石流が直撃した一軒の農家から女性の死体を発見。ところがその身元不明の女性は、地滑りによる死者ではなく、その前に何者かに殺害されていたのでした……。
ここから丹念な捜査パートが始まるのですが、アン・クリーヴスという作家はさりげない人物描写に解決への手がかりを混ぜるのが本当に巧みな作家なので、事件の真相と犯人を推理したいという向きはぜひじっくり腰を据えて取りかかってみてください。
ちなみにシリーズの舞台となるシェトランド諸島はノルウェーはじめ北欧諸国と地理的に近いため、北欧文化の影響も受けています。ヴァイキングの火祭りアップ・ヘリー・アーが毎年おこなわれるのもそうですし、本書でいえば死体の見つかった家の屋号〈トーイン〉は英語表記だとTain、来月創元ライブラリから文庫化されるキアラン・カーソン『トーイン クアルンゲの牛捕り』の、あのトーインのことです。