『九度目の十八歳を迎えた君と』が大変ありがたいことに創元推理文庫の仲間入りということで、光栄にもご挨拶の機会をいただくことができました。こんなに嬉しいことはないですね。改めまして皆様こんにちは。著者である浅倉秋成の母です。息子がいつもお世話になっております。
 本作『九度目の十八歳を迎えた君と』さらには『失恋の準備をお願いします(『失恋覚悟のラウンドアバウト』から改題)』(講談社タイガ)、そして『教室が、ひとりになるまで』(角川文庫)――この度、こちらの3作品がそれぞれ異なる出版社様から3カ月連続で文庫化という運びと相成りました。息子にとっても私にとってもまさしく望外の喜びです。これもひとえに読者の皆様のお力添えあってのこと。本当にありがとうございます。もし単行本のときはスルーしてしまったけど、文庫になったのなら買ってみてもいいかな――と思ってもらえたのなら、ぜひともご一読いただければ幸いです。

 あれは、3年前の12月のことですね。息子が唐突に「どうしてもニンテンドースイッチが欲しい。今すぐスイッチが手に入らないと二度と小説は書けないと思う」と何やら面倒なことを言い始めましてね。そりゃゲームが創作の役に立つこともあるだろうから、私としては買いたいなら好きにすればいいくらいに思っていたんですけど、あろうことかうちの息子ったら、「お母さん買ってくれるよね」なんて言い始めるわけです。
 そこで頑として「買うわけないでしょ。欲しいなら自分で買いなさい」と突き放してやればよかったんですけど、私も駄目な親でしてね。「クリスマスだから」だとか「お母さんが楽しめるゲームもたくさんあるから」なんて理屈を二つ三つ並べられるうちに、段々と心が揺らいでしまったわけです。あれよあれよと言質を取られていまして、気づいたときには息子と二人でイオンモール幕張のゲーム売り場でした。
 ただ、今思えば私の下調べが甘かったんですね。ニンテンドーさんの携帯ゲーム機だと聞いていたので高くても1万円するかしないかだと思っていたんです(私の中では往年のゲームボーイさんのイメージが強かったんですね)。でも値札を見れば3万円以上するじゃないですか。こうなると私の一存で簡単に決めていい問題でもなくなります。「一度帰って、お父さんに相談してから決めましょう」。そう言った途端に、ですよ。売り場の床に寝そべって泣くわ喚くわの大騒ぎ(ちなみにご存じない方がいらっしゃるといけないので説明しておきますが、このとき息子は28歳です)。
 こうなると収拾がつきません。恥も外聞もなく大騒ぎすることによって私が折れるのを待つのが息子の常套手段なんです。さてどうしたものかと思っていたら、ですよ。売り場にいた小さな(小学校低学年くらいですかね)男の子がとたとたとこちらに駆け寄ってくるんです。そしてあろうことか、息子に声をかけたんですね。
「秋成くん。騒いでもしゃあねぇべ。駄目なもんは駄目なんだよ」
 驚いた息子は起き上がって男の子を見ると、
「ヨシくん?」
「お母さん困らせたら駄目だよ。早く大人になんな」
 帰りの車の中で、あの子は誰だったのかと息子に尋ねたら「小学校のときの同級生のヤマナカヨシヤくんだ」って言うんですね。「小2のときに転校しちゃったんだけど、あの頃のまんまだった。小学生のまま年をとってないんだ」。馬鹿馬鹿しいことを言うのはやめなさいと諭すのも何か気が引けましてね、私も意味がわからないながら「ふうん」と返事をしておいたんです。おかしなこともあるのね、と。
「どうせだったら、さっきの出来事をモデルに小説でも書いたら?」
 そんな私の提案を素直に受け入れた息子は家に帰るなり、「駄目かと思ったが、ごり押ししたらニンテンドースイッチを買ってもらえたアラサー男性の話」を執筆し始めたので、違う違う、私が言いたいのはそうじゃない――と。その後、私のアドバイスを聞き届けた息子は2、3行ほど書く度に私のところにやってきては「次はどうしたらいいの?」と尋ね、また数行書き進めると私のところに――というルーティンを何度も何度も繰り返して作品を仕上げていきました(よくよく考えてみると、実際的には私が書いたようなものですね)。
 とまれ、そういった経緯で誕生したのが本作『九度目の十八歳を迎えた君と』です。同年にKADOKAWAさんより刊行されました『教室が、ひとりになるまで』と並んで大変な好評を博し、ありがたいことに息子の出世作のひとつとなってくれたありがたい作品です。自信を持ってオススメできる一品となっておりますので、お手にとっていただけると嬉しいです。

 ちなみにですが、この記事は、私が「どうしても母として『ここだけのあとがき』を書かせて欲しい」と頼み込んだわけではなく、東京創元社様のほうから「ぜひ、お母様にお願いしたい」とお声がけいただいたことをきっかけに執筆に至ったという事実を明記させていただきます。私も私ですが、東京創元社様もなかなかのチャレンジャーです。本当にこんなあとがきでよかったのでしょうか。不安は残りますが、まあ、大丈夫でしょう。
 息子の作品、そして私のTwitterアカウントよろしければチェックしてみてください。最後にヨシくんと邂逅した、くだんのシーンのイラストを添えておきますね。

ここだけのあとがき用イラスト:浅倉秋成