七輪に炭火を熾して秋刀魚を焼く。大根おろしとスダチを添えれば、言うことはない。秋の風物詩である。秋でなくとも、旬の魚は美味しい。魚を焼くには「川は皮から、海は身から」と言われる。魚の焼き方を教えたものである。かつては網で魚を焼いたものだが、今は両面グリルで焼く。今となってはこのような言葉は必要ないかもしれない。けれども料理人の蘊蓄には捨てがたいものが多い。

 閑話休題。

 囲碁には三つの楽しみ方があるという。対局する楽しみ、巧手の棋譜を並べる楽しみ、そして対局を観る楽しみである。対局の楽しみはもちろんだが、少し強くなると、プロの棋譜などを並べてみたくなる。そして奥深い手段に驚いたり、感心したりする。秀策と幻庵の「耳赤の局」は推奨できる。そして多くの名局を並べていると、指が様々な局面を覚えていくように思える。また最近はユーチューブなどで、プロ同士の対局をリアルタイムで観られる。プロの息遣いが感じられて、これも楽しみの一つである。囲碁仲間が打っているのを観ていて、つい口を出したくなるのも、人の常なのだろう。

 アルファ碁の登場で、囲碁界に大きな衝撃が走った。世界最強と言われたイ・セドル九段が負けたというだけでなく、その打つ手が従来の囲碁とは違っていたからである。(碁楽選書『人工知能は碁盤の夢を見るか』

 その後、アルファ碁だけではなく多くのAI囲碁が、対人間、対AI囲碁の棋譜を残している。そこから見られる手法は、定石と布石において、人間が数百年の間に研究していた内容を覆すものであった。これまでタブーとされていた初期の三々侵入が当たり前に打たれるような時代になった。すべてではないにしても、これまで人間が積み重ねてきた知識がAIによって簡単に覆される時代を、どれほどの人が想像できたのだろうか。しかしながら、このことをもって単に人間がAIに負けたとだけ捉えると、囲碁はつまらないものになる。「今まで思いつかなかった一手」をAIが教えてくれると考えれば、新しい世界を経験できる楽しさを感じることが出来る。

 本書は、AIにより流行した定石や布石の変化をまとめ、分かりやすく理解できるように構成した。「小目」の変化を中心に、AIの影響で打たれなくなった定石についても解説した。理解が深まるようプロの実践例も収録した。

 また本書は、『AIの流儀――タブーが常識になる』の姉妹編で、併せてお読みいただければ囲碁観の見直しにもなり、棋力の向上にも役立つことは間違いない。