亀珈(かめのかみかざり)王国。別名幽冥、「死者の国」という意味だ。
北をのぞく三方を海に囲まれた広大な大陸にあり、数えきれないほどの森林や湿地、河川と湖をそなえている。天候のほとんどは雨か濃霧で、冬には深い雪原が広がった。その冷たい美しさがあたかも黄泉のようだからだとも言われる。
だが、その名の本当の由来は、この国の一番の産業が死霊術、死者を蘇らせる呪術だからだ。

 死霊術で操られた意志を持たないゾンビのような死体に単純労働をさせたり、死者の軍隊で戦をしたり、また蘇生術で完璧な状態で蘇った死者は政に参加したりもしており、死霊術士の長である名付け師は国王と肩を並べるほどの力をもっている。

 そんな亀珈王国の都で家庭教師業を営む青年、儒艮が本作の主人公。だがこの儒艮、実はただの家庭教師ではない。父親が生者、母親が死者というハーフ、界人なのだ。しかも過去には国王の第二王太子のお世話役まで勤めたというエリート中のエリートなのに、その王太子が暗殺され、それを阻止できなかったことの責めを負い、生家からも放逐された身だ。その際に負った傷がもとで歩行ができなくなるという、心にも体にも大きな傷跡を抱えている。
 王家とも政とも縁を切り、家庭教師という一見地味な生業を選んでいた儒艮が、死霊術士の長、名付け師の暗殺計画という、国を揺るがす大陰謀に巻き込まれる。

 主人公儒艮のほかにも、盲目の少女死霊術士、王族殺しの罪で死刑宣告を受けた異人の女戦士、蘇生術で蘇った死せる美剣士といった濃いキャラクターが繰り広げる物語。誰が生きていて誰が死んでいるのか、誰が味方で誰が敵か、死んでも安らかに眠ることのできない、蘇った死者であふれた国で繰り広げられる、謎が謎を呼ぶストーリー。