みなさまこんにちは。ひさしぶりにWebミステリーズ!の記事を書きます。SF班(妹)です(この設定まだ生きているのでしょうか)。

2018年にスタートいたしました、国内SFの書下ろしアンソロジーシリーズ《Genesis》は、今年から創元SF短編賞受賞作を掲載するため、8月に刊行されることになりました。
ただいま収録作家さんととSF班で準備をしておりますので、どうぞお楽しみにお待ちください!


さて本日は、昨年12月に刊行されました第二集『Genesis 白昼夢通信』を改めてご紹介したいと思います。
《Genesis》シリーズには、各話扉をめくったところに担当編集者が書いた作品・著者紹介を掲載しています。
「気になってはいるけれど、読んだことがない作家さんも多いし……」と迷っていらっしゃる方のガイドになればいいなと思い、公開いたします!
電子書籍版は一冊まるごとのバージョンと単品売りの二種類をご用意していますので、どれか一編でも気になった方はぜひさがしてみてください。

■高島雄哉「配信世界のイデアたち」

 小説家であり、アニメのSF考証としてもご活躍の@高島雄哉{たかしまゆうや}さん。本作は現役のSF考証が書く、世界で初めて(たぶん)の”SF考証SF”です。
 この企画は高島さんから持ち込まれました。せっかく珍しいお仕事をされているのですから小説の題材にしない手はないですね、ということでこちらも二つ返事で引き受けたのはいいものの、
「これ、どうやってSFにするんですか? お仕事小説ではなく?」
「お仕事小説かつSFになります! じつは別の銀河でも#◇*@□×&○◎◆#○△んです」
「別の銀河で#◇*@□×&○◎◆#○△……?」
「もうひとりの主人公はスライムの女の子です。名前も決めました。ぴこまむです」
 この時は高島さんの言っていることが半分も理解できませんでしたが、その後関係者の方への取材や突然かかってくる「ぴこまむのジングルを決めました!(?)」という電話などを経て、アニメ制作会社でSF考証として働く女の子たちを主人公としたキュートでパワフルな新シリーズ《いであとぴこまむ》が誕生しました。駆け出しのSF考証・いであとぴこまむの活躍と奮闘にどうぞご期待ください。
 高島雄哉さんは、一九七七年、山口県生まれ。東京大学理学部・東京藝術大学美術学部卒。二〇一四年、「ランドスケープと夏の定理」で第五回創元SF短編賞を門田充宏「風牙」と同時受賞。一八年、受賞作を長編化した『ランドスケープと夏の定理』で書籍デビューを果たしました。同書は新人作家の第一作ながら『SFが読みたい!』(早川書房)のベストSF2018国内篇第5位となり、二〇一九年の星雲賞日本長編部門の候補作にも選出されるなど、高い評価を得ました。一九年には〇六年放送のアニメ『ゼーガペイン』のスピンオフ長編『エンタングル:ガール』を刊行。SF考証としては『ゼーガペインADP』のほか、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』『ブルバスター』など多くのアニメ作品に携わっています。


                                                      
■石川宗生「モンステリウム」

 日本発、世界文学。
 ── という言葉は、石川宗生さんのデビュー単行本『半分世界』(二〇一八年、東京創元社)に編集部が付したものです。われながら大胆な惹句だと思いますが、さいわいにも幅広い層から反響をいただきました。〈an・an〉にインタビュー記事が掲載されたほどでした(二〇一八年五月二十三日号)。
『半分世界』収録の四作は、創元SF短編賞受賞作「吉田同名」から発表順に配したものですが、一編ごとに驚きを新たにさせられました。
 そして本作も、石川世界を更新する一編です。
 変哲のない日常に一体の巨大怪物が静かに出現したと思いきや、この日常自体も異物であることが明らかになっていきます。
 なお石川さんは、お金をかけない世界旅行が趣味で、本作の著者校正中も、まさに校了しようとしている今このときも、ずっと海外を旅しています。発売日までに帰ってくるかどうかもわかりません。石川さんの旅の模様については、ウェブマガジン〈Web ミステリーズ!〉に連載した「春夏夏夏夏夏夏夏秋とうっ! 石川宗生の旅日記」をご覧ください。また、『時を歩く』(創元SF文庫)に収録した「ABC巡礼」は、旅そのものが重層化していく話です。そちらも是非お読みいただけますように。
 石川さんは一九八四年、千葉県生まれ。アメリカの大学を卒業後、二〇一六年に「吉田同名」で第七回創元SF短編賞を受賞。一八年の短編集『半分世界』は第三十九回日本SF大賞の候補になりました。



■空木春宵「地獄を縫い取る」

 空木春宵さんは、一九八四年、静岡県生まれ。駒澤大学文学部卒。二〇一一年、平安朝を舞台にした言語SF「繭の見る夢」が第二回創元SF短編賞の佳作となりました。一九年、『ミステリーズ!vol.96』の怪奇幻想特集にゴシック幻想ホラー「感応グラン=ギニョル」ギニョル」を発表。また書き下ろしアンソロジー『時を歩く』に古典落語をモチーフにしたSF幽霊譚「終景累ヶ辻(しゅうけいかさねがつじ)」が掲載されました。
 前作とはがらっと変わり、本作は近未来のアメリカが舞台です。〈蜘蛛の糸(スパイダーズ・スレッド)〉と呼ばれる官能伝達デバイスや〈エンパス〉という特殊技術が普及により、首筋のスロットにケーブルをつなぐことで、他人が体験した匂いや味、皮膚感覚、さらには感情までを追体験することが可能になっています。ジェーンとクロエは二人きりのラボで少女のAIを開発していますが、その正体は……。美しく艶やかな文章で紡がれる、断罪と復讐の物語です。
 作中に登場する地獄太夫は、室町時代に実在したとされている遊女の名です。我が身がこの世で不幸であるのは前世の行いによるものとして自ら地獄と名乗り、地獄絵図を縫った衣を纏う彼女の姿は、浮世絵師の月岡芳年や河鍋暁斎の作品にも登場します。美貌と高い教養、詩歌の才能を持ち、廓に身を置きながら仏教に帰依したという伝説の遊女の逸話が、AI開発者の女性たちとどう絡んでいくのか。どうか最後まで見届けてください。
■川野芽生「白昼夢通信」

 《Genesis》は今回初めて、商業媒体初登場の著者を迎えることになりました。歌人としてご活躍中の川野芽生さんです。
 川野さんとの出会いは数年前に遡りますが、短編小説を依頼しようと決めたのは川野さんが第三回ファンタジイ新人賞の最終候補に選出された翌年のこと。創作団体〈怪獣歌会〉のnote で、十二月一日から十二月二十五日まで毎日記事を更新するという” アドベント企画” が行われており、そこで川野さんのエッセイを読ませていただいたのがきっかけです。「ぬいぐるみへの愛に悩んだときに」と題されたそのエッセイは、愛について書かれているのにもかかわらず情念や執着といったものの気配がなく、穏やかでほどよくドライで、優しいのに体温が感じられない不思議な文章でした。
 この世にいながらにして、この世のものではない景色を幻視することができる、そんな書き手に出会えたと思いました。書簡体小説を書いてみませんか、という提案をしたのは、この方から届くお手紙は、きっとこの世のどこでもない場所のことを書いた、でもたしかに世界のどこかには存在しているような、お手紙自体がひとつの世界であり世界をつくる一部でもあるような、そういうになる気がしたからです。
 メールの文面はいつも、「お手紙を書きました。」で始まっていました。宛先にはわたしの名前があるのに、それはわたしに宛てたものではなく、まるで他の誰かへのお手紙を一通一通、預かり続けているようでした。
 川野芽生さんは、一九九一年、神奈川県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科在学中。二〇一七年、長編「海神虜囚抄」(間際眠子名義)で第三回創元ファンタジイ新人賞の最終候補に選出。二〇一八年、「Lilith」三十首で第二十九回歌壇賞を受賞しました。



■門田充宏「コーラルとロータス」

過剰共感能力者──他者の感情を過剰に感じとってしまう生まれついての特質のため、社会生活に支障をきたしてしまう人々。珊瑚もその三万人にひとりという共感能力者だった。だが過剰共感を抑制する機構が開発され、同時にかれらは、クライアントから抽出した記憶を他人にわかるよう「翻訳する」技能者として力を求められるようになった。
 本作は、創元SF短編賞受賞作「風牙」にはじまり、門田充宏さんが描きつづけているシリーズの一編です。
 語り手の珊瑚は関西弁の元気なキャラクター。この話は十六歳のときの事件ですが、彼女の背景や、他の年齢で遭遇する事件は『風牙』『追憶の杜』(ともに東京創元社)で描かれていますので、珊瑚にまた会いたいという方は、ぜひお読みいただけますように。
 シリーズ外の作品では、『時を歩く』「Too Short Notice」を発表しています。死が迫った人間の望みをかなえるVRサービスという題材が、最後に鮮やかに切り替わる傑作です。
 門田さんは一九六七年、北海道生まれ。一橋大学社会学部卒。在学中はSF研究会に所属していました。二〇一四年、「風牙」で第五回創元SF短編賞を受賞しました(高島雄哉「ランドスケープと夏の定理」と同時受賞)。



■松崎有理「痩せたくないひとは読まないでください。」

 十一月に刊行した最新短編集『イヴの末裔たちの明日』では、さまざまな〝極限〟に直面した人々をユーモラスかつ軽やかに描きあげた松崎有理さん。《Genesis》には第一集に続いての登場となります。
 あやしげなダイエット食品のキャッチコピーを思わせるタイトルの本作は、国が国民の健康増進に血道をあげるようになった未来が舞台です。
 とある理由から突然会社を解雇され、それどころかとんでもない国家プロジェクトに巻き込まれることになった主人公。究極のデスゲームを生き残るため、彼女がとった方法とは。読むとお腹が空いてくる? それとも──
 松崎有理さんは、一九七二年、茨城県生まれ。東北大学理学部卒。二〇一〇年に大学を舞台にしたアイデアSF「あがり」で第一回創元SF短編賞を受賞しました。著書には同作を表題とした『あがり』のほか、『代書屋ミクラ』『代書屋ミクラ すごろく巡礼』『洞窟で待っていた』『嘘つき就職相談員とヘンクツ理系女子』『5まで数える』『架空論文投稿計画』など。書き下ろしアンソロジー『時を歩く』には獄中でタイムマシンを製造する囚人たちの奮闘劇「未来への脱獄」を発表しました。
 シリアスな題材をあつかっても、どこか憎めないキャラクターと独特の楽しげな文体で読者を惹きつける、アイデア派のストーリーテラーです。



■水見稜「調律師」

 水見稜、三十年ぶりの復活です。
 昨年二月、ワセダミステリクラブ六十周年記念パーティが二百人以上の出席者を集めて開かれ、ぼくも参加させていただきました。会場で記念同人誌『小説4集?Phoenix 外伝』が配布されたのですが、そこに水見さんが作品を寄せられていると知ったときの驚きといったらありません。それが「アルモニカ」で、今年の『年刊日本SF傑作選 おうむの夢と操り人形』(大森望・日下三蔵編、創元SF文庫)に、日下さんの推薦で再録させていただきました。
 パーティーには水見さんもクラブOBとして出席していらっしゃいました。二〇一一年に『マインド・イーター』を創元SF文庫で「完全版」として再刊させていただいた際にお目にかかって以来の再会でした。躊躇なく、「また書いてください」と切り出しました。
 ここに一九八九年以来となる、商業媒体での新作をお届けします。
 地球を離れたとき、音楽は違ったものになるのではないか。それは人間にどう影響するのか。本作では水見さんの初期短編とも通じる、音楽と人の身体性が扱われます。
 水見さんは一九五七年、茨城県生まれ。早稲田大学第一文学部卒。ワセダミステリクラブに所属していた在学中、八〇年に第六回ハヤカワ・SFコンテストに「夢魔のふる夜」を投じ最終候補となります。
翌年〈SFマガジン〉「オーガニック・スープ」が掲載され作家デビュー。なお「夢魔のふる夜」は同名の長編第一作として八三年に早川書房より刊行されました。









時を歩く 書き下ろし時間SFアンソロジー (創元SF文庫)
空木 春宵・高島 雄哉・門田 充宏・石川 宗生・久永 実木彦・八島 游舷
東京創元社
2019-10-30