岡田秀文『戦時大捜査網』(東京創元社 2000円+税)は、『帝都大捜査網』に続く昭和初期の東京が舞台の〈警視庁特別捜査隊〉が登場する物語だ。
 昭和19年、B29による三度目の帝都空爆が行なわれた直後、警視庁特別捜査隊隊長の仙石は異様な事件の捜査を手掛けることに。隅田川(すみだがわ)沿いの倉庫街で見つかったのは国民服を着た丸刈りの若い女の死体。胸から腹にかけて縦に切り裂かれており、現場の状況から、死後ここに運ばれてきたようだ。捜査を進める仙石たちだったが、またしても同じ方法で殺害された死体が発見され、しかもなにやら背後に地下組織の存在が……。

 戦争によって人員を削減されたうえに、軍や特高が幅を利かせ、突然の空襲に気を抜くこともできない苛酷な状況下で犯人逮捕を目指さなければならない緊迫感。死と隣り合わせの捜査過程に目が釘付けになる。『帝都大捜査網』のような仰天のサプライズこそないものの、最後の最後に異例の動機が明らかに。愛国とは、戦争とは、政治とは、そして犠牲となった無辜(むこ)のひとびととは。読み終えたあとも、そうしたひとつひとつに思いを巡らせたくなる一冊だ。

 なんとも目を惹く奇抜なタイトルである、城戸喜由(きどきよし)『暗黒残酷監獄』(光文社 1700円+税金)は、第23回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。
 人妻との不倫中に旦那が突然帰宅するピンチを切り抜けた高校生の清家椿太郎(せいけちゅんたろう)(このネーミングセンス!)は、母から「お姉ちゃん死んじゃった」というLINEを受け取る。姉の御鍬(みくわ)は音楽スタジオの室内で十字架に磔(はりつけ)にされた状態で死んでおり、財布には「この家には悪魔がいる」というメモ書きが残されていた。以前に自殺した兄を含め、“悪魔”とはいったい誰を指しているのか。家族を調べ始めた椿太郎が、各々の秘密の先に見た真実とは……。

 娘が磔にされていた十字架をスマホで撮ってインスタにアップしようとする母親、会話の途中でいきなり「ラララ」といい出す主人公、彼が両親にかける慰(なぐさ)めの言葉が「また産めばいいさ」等々、倫理や一般常識を鼻で嗤(わら)うようなテイストは好き嫌いがはっきりわかれるだろう(筆者は佐藤究『QJKJQ』や白井智之作品を頭に浮かべながら愉(たの)しんでしまった)。アンモラルでひとを喰った作風だが、音楽スタジオでの犯人を絞り込んでいくロジック、残されたメモ書きの真意など、本格ミステリとしての完成度も高く、侮(あなど)れない。けれど一番驚かされたのは、てっきり「家族」を冷笑する意地の悪い物語だと思っていたら、温かな話でも読んだような気持ちになるラスト。城戸喜由、ただ者ではありませんぞ。