佳作から出版していただいたデビュー作『忘却城』
 当初から「情報過多!」「読みづらい!」「漢字が多すぎ!」などなど、あらだらけだった作品ですので、ここまで続けて書かせていただけるとは思っていませんでした。
 今日までお世話になったすべての方に、深くお礼を申し上げます。
『忘却城・炎龍の宝玉』は、シリーズ第三弾。
 私は「アットホーム」「グロテスク」のつもりで書いていましたが、解説の井辻朱美先生は「ディテール地獄」で「ポストモダン的」とおっしゃいました。おそらくこの四語で、本作の説明はしつくされたと思われます(笑)。

『忘却城』を書くことになったきっかけ。
 それは高校時代の、とても身近な人の死でした。
 こう書くと悲しくなってしまいますね。しかし同時に、この人の死によっておきた様々なことを興味深く感じていた自分を覚えています。
 それというのも、人が死ぬと、その人が残した問題や秘密がぽんぽん出てくるからです。
 蔓を引くと次々とサツマイモが連なって出てくるように、ある物事をきっかけに次々と別の物事が明らかになる。遺産相続や法手続きに関する憂鬱な雑務。家族・親族や友人によって語られる美談と醜聞。借金や愛人、隠し子まで出てくる人もいます。どうしてそうなったと当人へ問い詰めたいのですが、死人に口なし、時すでに遅し。おいおいと呆れる一方で、しょうがねぇと笑って許したくなることもある。
 死、という現象にオマケでくっついてくるもろもろに、私は好奇心をくすぐられたのだと思います。人の一生が終わるとき、それが普通の人に見えても、必ず、他者に影響を与えるドラマが生まれる。その点で『忘却城』は、死の物語ではなく、他者の死によって人生を突き動かされていく人々の物語です。

 HPだけの「あとがき」ということで、ここでは亀珈王国を含む世界について、ちょっとしたエピソードをお話ししたいと思います。
 黒色人種が白色人種を奴隷として扱うようになったこの世界では、白色人種は第七系人の一種だけですが、黒色人種には、第四系人と第五系人の二種があります。
 第七系人を完全に廃絶・奴隷化した第四系人と、第七系人の文化を取り入れた第五系人です。
 どちらも安定した国家を築いていますが、地上一の先進国と言われているのが第五系人帝国。この帝国の人々は、現在、特定の宗教を持ち、スーツやドレスで生活しています。電子機器はありませんが、死霊術ではなく餌付けによって人外たちを使役し、文明を発展させています。
 第四系人が暮らす四大諸島列島には、四つの国があります。かつては、彼らが第七系人の奴隷でした。崇拝していた人外王の死によって第七系人が衰退したのを機に、逆襲開始。文明水準は高くないのですが、現在は率先して第七系人を奴隷化する享楽的な文明を築いています。
 次に人口が多いのが、黄色人種。
 黄色人種には第一系人と第二系人がありますが、物語でたびたび登場する「黒髪の大戦」は、五十年以上前、このふたつの人種により引き起こされました。黒髪という名の由来は、黄色人種だけが参加した戦いだったからです。東仙大陸で増殖した凶暴な人外たちから、逃げるように侵攻してきた第二系人。彼らを迎え撃ったため、王国の北部・東部はひどい戦場となりました。港の封鎖に成功したことで終戦を迎えましたが、以降、第二系人との国交は完全に絶たれています。私のなかでは、第二系人には生き残りがいますが、とても国の再建ができる人口ではありません。
 第三系人についてはぼんやりとしか考えていませんが、細胞に変異がおこった人々。第六系人は、その他の人種・民族の総称です。

 最後に、三巻で登場しなかった脇役たちのこともすこしお話しします。
 今回は男性美形枠である、象牙と何首烏について(笑)。
 生者の象牙は、いわゆる良い子タイプ。一巻では、舞蒐の正反対となるキャラクターとして書きました。舞蒐という女の子は、勉強はできるのですが、わがままな引きこもりで、とてもさみしがり屋です。その反対ということで、象牙という男の子は運動神経ばつぐん。謙虚で優しく、常に前を向ける強さを持っています。彼の舞蒐に対する気持ちは恋愛というより友愛ですが、変化がおきるかもしれません。ちなみに彼には、克氏をしている美人なお姉さんがいます。
 死者の何首烏は、生きていたころから感情の揺れが少なく、植物のような性格をしていました。空の雲や池の鯉などをながめて半日は過ごせるタイプです。彼の略歴や、生家である氾家については『忘却城・鬼帝女の涙』で書かせていただきました。たぶん彼は、最後の一人が亡くなるまで、霊昇山で百人の御子たちを見守っていく存在です。
 こんなところでしょうか。
『忘却城・炎龍の宝玉』では、主に金魚小僧にスポットを当てています。正直、一巻ではなにを考えているかわからない死者の少年だったので、生者となった彼の個性が立つまでの軌跡として、本作を楽しんでいただければ幸いです。

 最後になりますが、この場を借りて、今日まで私を支えてくださった方々に謝辞を。
 石井先生、阪本先生、H・O先生、一柳先生、担当編集の小林様および東京創元社の皆様、この物語を見守って下さる読者の方々と、さらにデジタル化の時代に紙のファンレターを下さった尊き方々、親族の皆と友人たち、そして最愛のお母さんへ。心から感謝の言葉を贈ります。



鈴森琴
東京都出身。玉川大学文学部卒業。2018年の第3回創元ファンタジイ新人賞の佳作入選した『忘却城の界人』を2019年『忘却城』と改題してデビュー。他の著作に『忘却城・鬼帝女の涙』がある。


『忘却城・炎龍の宝玉』の411ページの挿絵のカラーバージョンをHP限定で特別公開!金魚小僧と儒艮の姿をカラーでお楽しみください!

忘却城



忘却城 (創元推理文庫)
鈴森 琴
東京創元社
2019-02-20


忘却城 炎龍の宝玉 (創元推理文庫)
鈴森 琴
東京創元社
2020-05-20