それでは夫への愚痴はどこで吐き出せばよいのだろうか。思い返してみると、ママたちから夫に対する愚痴をあまり聞いたことがない。スウェーデンに来てからは、自分も言ったことがない気がする。趣味の多いわたしが夜も家を空けることが多いのに対し、夫は毎晩子供と一緒に家にいてくれる。わたしが2週間の出張に出ても、文句も言わずに送り出し、帰ってきたら大喜びしてくれる。愚痴を言うどころか、こちらは常に申し訳なさと感謝でいっぱいである。
 スウェーデンのママたちには、むしろそういう気持ちでいる人のほうが多いのではないだろうか。わたしの知っている女性は30代になってから医学部に入り、実習は遠くの街の病院で行っていたため、週末しか家に帰ってこない生活を1年間続けていた。その間、1歳、3歳、7歳の子供の面倒は夫がひとりで見ていた。ママが活躍し、パパが文句ひとつ言わずに家を守っているという構図は、スウェーデンでは幸福を絵に描いたようなパターンだ(それでは男女平等ではないと思われるかもしれないが、女性のほうが活躍することはスウェーデンでは常に好意的に受け入れられる)。この状況で夫の愚痴が言えるだろうか。
 もちろんパパのほうが仕事で出張が多かったり単身赴任をしているご家庭もあるが、ママのほうが留守がちな家もあれば、パパのほうが留守がちな家もある中で、たまたまそのご家庭はスウェーパパのほうが……というだけの話である。日本のように〝男性は家庭よりも仕事を優先する〟という先入観がないだけに、愚痴にはつながりにくいのかもしれない。

【著者紹介】
1975年兵庫県生まれ。神戸女学院大学文学部英文科卒業。高校時代、交換留学生としてスウェーデンで学ぶ。大学卒業後は北欧専門の旅行会社やスウェーデンの貿易振興団体に勤務。2010年に夫と娘の三人で東京からスウェーデンに移住。現在は翻訳のほか、日本メディアの現地取材のコーディネーター、高校の日本語教師として活躍している。主な訳書にペーション『許されざる者』『見習い警官殺し』、ホーカン・ネッセル『悪意』、アンナ・カロリーナ『ヒヒは語らず』などがある。
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