【フィンドゥス社の冷凍白身魚のフライ】
 タラなどの白身魚を、人工的な長方形のフライにした冷凍食品。味もついているし、フライパンで焼くだけなので楽勝だ。この製品はスウェーデンにかぎらず、イギリスではフィッシュ・フィンガーという名で流通しているし、夫もイタリアで子供のころよく食べたという。どうやら欧米では〝懐かしの味〟らしい。
 スウェーデンではこれにレモン汁をかけ、茹でたじゃがいもかマッシュポテトをつけ合わせる。さらに手抜きしたければ、マッシュポテトも牛乳を混ぜればいいだけの粉状の製品が売られている。冷凍食品にもかかわらず、肉食に偏りがちなスウェーデンにおいて「今週はちゃんと子供に魚を食べさせた」という親の充足感に貢献してくれ、人気は絶大だ。

【スウェーデン家庭料理の新定番、タコス】
 最後に、ここに挙げた中ではもっとも新しくて、しかも栄養バランスもよいメニューを紹介しよう。それはこの10年ほどで一気に人気の定番家庭料理へと駆け上がったタコスだ。スーパーに行けば、大きな棚ひとつ、いやひょっとすると2つ分は、タコス関連食材が売られている。
 おおざっぱにタコスと呼ばれているが、すぐに割れてしまう固いタコスのシェルのことではない。スウェーデンでよく食べられているのは白くて丸い薄い皮で、要はトルティーヤのことだ。小さな子供のいる家庭であれば、ひき肉を専用のスパイスミックスで炒め、トマト、キュウリ、レタスを小さく切っておいて、あとは缶詰のコーンやチーズを準備し、各自で好きなものを好きなだけトルティーヤに巻いて食べる。ソースやワカモーレ、トルティーヤチップスなどの付属品も充実している。

 スウェーデン人がいちばん頻繁に食べていそうなイメージがあるのはミートボールだが、どうしても右記の料理よりも調理時間が長くなる。ひき肉をいくつも小さく丸めなきゃならないし、つけ合わせのじゃがいもも用意しなければいけないからだ。ではミートボールはイケアのレストランあたりでしか食べないのかというと、そうでもない。子供も好きだし、やはりよく食卓に上る。どうも、大量に作って冷凍しているようだ。日本の餃子みたいな位置づけなのだろうか。冷凍しておけば、仕事から帰ってきてフライパンで調理するだけですむ。
「子供にもっと野菜をしっかり食べさせたいのに」という親の悩みは万国共通だろう。ところがスウェーデンには伝統的な野菜料理というのがほとんどない。厳しい気候のせいで、じゃがいもと玉ねぎとカブ類くらいしか育たなかったのだと思う。


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