夫が5時には帰宅することには、精神的にもかなり救われた。
 魔の2歳児真っ盛りのころは、1日に何度も娘の激しい抵抗に遭い、終わりなき闘いに精根尽き果てそうになることもしょっちゅうだった。そんなときに軽く叩いたりしようものなら、大変なことになる。先述のようにスウェーデンでは体罰は厳しく禁じられている。子供が悪気なく「ママにぺちっと叩かれた」と保育園で話せば、児童相談所や裁判所を巻き込む騒ぎになるのだ。大声を出して威圧したり、揺さぶったりするのも、親としてやってはいけないこととされている。街中で、わがままを爆発させて泣き止まない子供を見かけることもあるが、親は声を荒らげることはなく、我慢強く子供に言い聞かせている。言い聞かせたところで小さな子供が納得するわけもないのだが、それでも根比べのように説明し続ける。
 わが家の娘さんの場合、スウェーデンの保育園で30年間働いてきたベテラン先生に「こんなに意志の強い子は初めて見た」と言わしめたほどの魔物ぶりだったので、わたしの気力が尽き果てることもあった。どうにもならなくなると、わたしはソファのうしろに隠れてしまう。ママがいなくなって泣き出す娘。そこを夫がなぐさめ、「ママに謝りにいこうね」と誘えば、素直にわたしのところにやってくる。そこで仲直りをし、一件落着である。こういう衝突はたいてい子供が疲れている夕方から夜にかけて起きるので、夫が夕方に帰ってくるのは本当に助かった。わたしひとりで対応しなければいけない状況だったら、大声で怒鳴りつけていたかもしれない。


【著者紹介】
1975年兵庫県生まれ。神戸女学院大学文学部英文科卒業。高校時代、交換留学生としてスウェーデンで学ぶ。大学卒業後は北欧専門の旅行会社やスウェーデンの貿易振興団体に勤務。2010年に夫と娘の三人で東京からスウェーデンに移住。現在は翻訳のほか、日本メディアの現地取材のコーディネーター、高校の日本語教師として活躍している。主な訳書にペーション『許されざる者』『見習い警官殺し』、ホーカン・ネッセル『悪意』、アンナ・カロリーナ『ヒヒは語らず』などがある。