日本ではまだ、文句を言わずに年じゅう残業をしたり、家に仕事を持ち帰ったりするのが美徳とされている部分がある。逆にそうしないと居づらい職場もあるだろう。スウェーデンだと、サービス残業などしようものなら、むしろ同僚たちから反感を買ってしまう。定時内に終えられないほどの仕事があるというのは、会社や上司の采配が悪いということだ。そこをカバーするような行動は同僚たちから歓迎されない。やるべきなのは、仕事量が多すぎることを上司に相談し、他の人に仕事を割り振ってもらったり、もっと人を雇ってもらったりすることなのだ。
 適切な仕事量を与えられている場合、それでも残業をするのは単にその人の仕事が遅いという印象を与えてしまう。ときどき定時になる前に帰ってしまう人がいるが、周りは「今日は仕事が早く片付いたんだな」とか「この前ちょっと残業してたから、今日は早く帰るんだな」としか思わない。帰るほうも、堂々としたものである。
 保育園に通うようになって驚いたのは、フルタイムの親でも保育園のお迎えは4時ごろで、5時を過ぎても残っている園児はほとんどいないことだ。残業がないにしても、どうすればそんなに早く迎えにいけるのだろうか。
 スウェーデンの基本的な1日の労働時間は休憩時間を除いて8時間だ。5時に退社したければ、朝8時に出社しなければいけない。4時に帰りたければ、朝7時出社というのも珍しくない。そんなに朝早くにと驚かれるかもしれないが、実際にはそれほど負担にはならない。子供はどうせ早く起きるし、8時までに行けば保育園で朝ご飯が食べられるから、着替えさせて登園するだけでいい。おまけに小さな街なので、通勤といっても15分くらいしかかからない。
 東京では7時に出社するなんてよほどストイックな人にしかできない業(わざ)だろうが、こちらでは無理なくそれができる。親子とも6時に起きれば、充分可能なのだ。それで4時に退社できると思えば、早起きは充分に報われる。
 それに加えて、子供が小さいうちは短時間勤務をする親も多く、3時を過ぎるとぽつりぽつりとお迎えにやってくる。おじいちゃんおばあちゃんが同じ街に住んでいるご家庭もけっこうあって、祖父母がお迎えに来るパターンもある。
 両親とも夕方に帰宅するから、ひとりが子供を見て、ひとりが夕食を作ればいい。日本にいたころはひとりで子供の相手をしながら必死で夕食を作ったものだったが。今では家族全員で食事をすませ、片付けてもまだ6時過ぎ。平日でも子供と過ごす時間は充分にある。