小柄で冴えない容貌かつ、不器用なブラウン神父。容姿端麗だが、運動神経が悪く挙動不審なカメラマン・亜愛一郎。彼らに共通するのは、「一見頼りないが、実は奇妙な事件を鮮やかに解決する、鋭い洞察力を持った名探偵」である特徴です。
そんな大先輩に続く、令和の、いえ21世紀の「とぼけた切れ者」名探偵が、創元推理文庫にて新たに登場します!その名もエリ沢泉(えりさわせん。「エリ」は「魚」偏に「入」)。


エリ沢は、昆虫オタクのとぼけた青年。昆虫目当てに各地に現れる飄々とした彼はなぜか、昆虫だけでなく不可思議な事件に遭遇してしまいます。本書では、奇妙な来訪者があった夜の公園で起きた変死事件(「サーチライトと誘蛾灯」)や、〈ナナフシ〉というバーの常連客を襲った悲劇の謎(「ナナフシの夜」)といった、昆虫絡みの5つの事件を収録しています。

軽妙な語り口や、ユーモアあふれる会話の中に、巧みに張り巡らされた伏線。些細な手がかりから驚愕の真相が現れるという、事件構図が反転する鮮やかさ。どの短編も、切れ味の良い本格ミステリが楽しめます。
また、事件をめぐる人間ドラマも、しっかり描かれています。特に、話を読み進めていくうちに、とぼけた性格という一面しか見えなかったエリ沢が、犯人や事件関係者への悲しみや優しさを見せるようになり、キャラクターの存在感が増していきます。罪と罰を問うた最終話「アドベントの繭」を読み終えた時、しみじみとした余韻が残ることでしょう。

著者の櫻田智也さんは、2013年「サーチライトと誘蛾灯」で第10回ミステリーズ!新人賞を受賞し、17年に受賞作を表題作にした連作短編集でデビュー。18年、同書収録の「火事と標本」が第71回日本推理作家協会賞候補になり、更には20年、「コマチグモ」『ミステリーズ!vol.94』掲載)が第73回日本推理作家協会賞短編部門に候補作として選ばれるといった、期待の実力派作家です。

そんな気鋭のデビュー短編集を、どうぞお楽しみください。河合真維さんによる格好良いエリ沢(&影の主役!?でもある、昆虫や植物)が描かれた装画と、長﨑綾さんによるクールな装幀(担当編集者は、タイトルフォントがお気に入り)が目印のカバーを、要チェックです!