2016年初旬に「アルファ碁」と韓国のイ・セドル九段との対局があった。弊社刊行の『人工知能は碁盤の夢を見るか?』にその棋譜と「アルファ碁」の背景を記してあるので、ご一読ください。


 まだ十年位は人間の相手にはならないだろうという戦前の予想を簡単に覆して、「アルファ碁」は強かった。かろうじてイ・セドル九段が一勝しただけに終わった。衝撃を受けたのは囲碁ファンだけではなかったようだ。以降様々な分野でのAIの活用が実用化されるようになった。その後、中国の「絶芸」とか多くの国で囲碁を打つAIが登場してきて、やはり強い。プロもAIの一手を応用するようになってきた。囲碁に限らず、人は常識を疑うことで進歩してきたのだと思う。

 さて囲碁は、正倉院の御物に碁盤があることからもかなり古い時代に日本に渡来したようだ。吉備真備も囲碁をたしなんだようだし、清少納言や紫式部も囲碁を楽しんだ記録がある。『徒然草』にも囲碁に関する記述がある。ただ対局の仕方は現在とは違っていたようだ。現在のような形になったのは江戸時代からである。江戸時代は、幕府の庇護のもとで、本因坊道策、安井知得、本因坊丈和、本因坊秀策等々、多くの名手が現れた。彼らによって手割とか布石や定石の研究がなされた。今でもその成果は生きている。昭和になって呉清源と木谷実により新布石の研究があり、囲碁の幅が広がった。

 囲碁は19×19=381の交点に打っていくのがルールだが、勝ち負けを争うものだから、ゲームのコツというものがある。「隅から打っていく」「二目の頭に打たれてはいけない」「初期に三々に打ってはいけない」「アキ三角は形が悪い」とかの暗黙の常識のようなものがある。先に述べた新布石も初期に「星」に打つのは甘くなるから良くないと言われ、打たれなかったがスピードを重視することで、大勢を制することが出来ることを勝負によって証明した結果、認められた。

 AIは一手一手の背景を語ることがないので、その意味を探らなければならない。
AIは二目の頭を打たれたり、初期に三々に入ったりするが、それで形勢が悪くなることはない。今までの常識では対処できない。

 本書は、AIの一手に関して、特に三々に入って、外勢が出来て、それにどう対応するのかの変化を様々なパターンで研究した成果である。大いに参考になること間違いない。