東京創元社「文庫創刊60周年記念書き下ろし」と銘打たれた、鯨統一郎『文豪たちの怪しい宴』(創元推理文庫 720円+税)は、代表作『邪馬台国(やまたいこく)はどこですか?』に連なる作品集。ただし、今回議論されるのは「歴史」ではなく「文学」だ。


 文学部の教授にして日本文学研究の重鎮である曾根原は、夏目漱石『こころ』に関するシンポジウムの帰りに、〈スリーバレー〉なるバーが目に入り、ドアを開く。ほかに客はおらず、若い女性バーテンダーのミサキと会話を交わしていると、彼女が『こころ』の内容に抱いている疑問を口にしたため予期せぬ講義をするはめに。するとそこに宮田という男が現れ、なんと『こころ』が殺人事件の絡んだ犯罪小説にして見事な百合小説だと断言するから、さらに議論は白熱することに……。

 宮田の繰り出す仰天必至の新たな解釈が、一般的な読まれ方の盲点を突き、定説をひらりと躱(かわ)しながら根拠を示し、次第に説得力を高めていく過程は、じつに痛快だ。

 続く3つのエピソード――太宰治『走れメロス』は、人間の信頼と友情の美しさを描いた作品ではなく、セリヌンティウスが見た夢を記述したものだった。宮沢賢治『銀河鉄道の夜』は、賢治と父親の関係を表した作品だった。芥川龍之介『藪(やぶ)の中』の登場人物9人のなかでズバリ真犯人は誰か――も、そういう見方もあったかと何度もひざを打ちたくなるものばかり。そしてなんといっても最後の最後に示される芥川にまつわる“推測”には仰(の)け反(ぞ)ること請け合いなので乞うご期待。

 歌田年『紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人』(宝島社 1380円+税)は、第18回『このミステリーがすごい!』大賞で「大賞」を射止めたデビュー作。開巻いきなり、【本の各部の名称(ソフトカバー)】【本書で使用している用紙】といった解説ページが目に飛び込み、本文には四種類の紙が用いられ、さらに事件を解くカギとなる証拠品の手紙までついているから驚くが、この凝った製本には無論理由がある。本作の主人公である渡部は紙の販売代理業を営む「紙商」にして、どんな紙でも見分けることができる「紙鑑定士」なのだ。



 物語は、紙鑑定を「神探偵」と勘違いした女性から浮気調査を依頼されるところから幕が上がる。手掛かりは戦車のプラモデルを写した写真一枚のみ。行き掛かりから調査を開始する渡部だったが、伝説のプラモデル造形家の土生井(はぶい)と出会ったことで真相にたどり着く。すると今度はジオラマを手掛かりに行方不明の妹を探して欲しいという依頼が。渡部と土生井が調査を進めると、なにやら重大な犯罪の臭いが……。

 紙鑑定士と伝説的モデラ―という異色のコンビが、蘊蓄(うんちく)を語りながら謎を追う展開がとにかく愉しい。話の進展にもう少し手順を踏むべきではと感じられる箇所もあるが、常識破りな犯人のまさかの動機はインパクト抜群で、開いた口が塞がらない。