「オマージュ」というとパロディや模倣と同義のごとく捉え、鼻白む向きもなかにはあるようだが、では正しくオマージュを捧げた粋(いき)な作品とはどのようなものを指すのか。その問いに対する答えとして、法月綸太郎『赤い部屋異聞』(KADOKAWA 1800円+税)は、まさに格好の一冊といえる。


 収録された9篇は、いずれも著者が偏愛する東西の名作が元ネタになっている。たとえば表題作は、いうまでもなく江戸川乱歩「赤い部屋」を下敷きにしたものだ。

 日常に退屈し、レストランの2階「赤い部屋」に集まっては猟奇的な話や怪異な物語を披露する会員たち。今晩の話し手を務める新入会員「T」は、“安全至極な殺人法”で99人の人間の命を退屈しのぎに奪ってきた殺人遊戯について語り出す。そして語り終えたあとに仰天の結末が……。

 という内容で乱歩が試みた企みを土台に、法月綸太郎は独自のアイデアと巧みな演出で、さらに輪をかけた驚きを鮮(あざ)やかに創造し、いっそうの戦慄(せんりつ)を読み手にもたらす。帯の“どんでん返しのつづら折り”という表記に偽りなしの傑作である。

 ほかにもコーネル・ウールリッチ「一滴の血」、ジョン・コリア「夢判断」、都築道夫「阿蘭陀(オランダ)すてれん」など比較的わかりやすいものから、「あとがき」を読まないとまずわからないマイナーなものまで、ミステリファンを唸(うな)らせる多種多様な変奏が存分に愉しめるが、なにより素晴らしいのは、この作品集が単にマニアを悦(よろこ)ばせるための高度な遊びに留まらず、名作への真摯(しんし)な手引きにもなっている点だ。

 もしも「元ネタを知らないから」と手を伸ばすことにためらいを覚える向きがあるなら、どうぞご安心いただきたい。この一冊を入口にそれぞれの名作をたどり、原典とアレンジの妙を確認することで、むしろその面白さは二倍にも三倍にも増すはずである。と同時に、著者の優れた知性と鑑賞眼、心憎い遊び心、冴え渡る技巧、そして誠実なミステリ愛を痛感することだろう。

 第16回メフィスト賞受賞作『ウェディング・ドレス』でのデビューから20年。黒田研二『家族パズル』(講談社 1800円+税)は、節目を飾るにふさわしい「家族」をテーマにした充実の作品集だ。


 末期がんで亡くなった父親は、なぜ死の直前にスーツを着て、雨のなか靴も履かずに病院の庭を歩いていたのか(「はだしの親父」)。かつて自殺を思い止まらせてくれた心優しきホームレスが、それから数日と経たないうちに少年を殺(あや)めてしまった事件の真相(「神様の思惑」)。窮地に陥り、至急大金が必要になった青年が、画商だった父親の形見の絵に目をつけ、母親を騙(だま)そうと目論(もくろ)んだ顛末(てんまつ)(「タトウの伝言」)。
 
 リストラに遭ったことを家族に隠している中年が雨の日に出会った迷い犬には、なぜか不思議なことが多く、なにか秘密があるに違いないとにらむ(「我が家の序列」)。25年前、たまたま耳にしてしまった息子の死を願うような母の残酷なつぶやきと、現代の失踪事件から見えてきた秘められた真実(「言霊(ことだま)の亡霊」)。

 初期の作品ではドラマよりも仕掛けの盛り込みや驚きの威力を重視するイメージが強かったが、本作では収録作いずれも、施された仕掛けは極めてシンプルなものばかりだ。しかし、だからこそ効果的に発動させるためには繊細さが要求されるわけだが、さすがの手際で申し分のない着地をつぎつぎと決めていく。終盤で明らかになる家族だからこそ見えていなかった大切なことや子を持つ親だからこそわかる深い想いは、ミステリの手法で描き出されたからこそ、いっそう温かく、切なく、心を震わせる。本誌読者には「はだしの親父」の構成の妙と「言霊の亡霊」の周到な驚きに、とくにご注目いただきたい。

 近年はホラーゲーム『青鬼』のノベライズなど、若い読者に向けた作品での活躍が目立っていた著者だが、家族ミステリという新境地が大きく華開いた本作品集の上梓(じょうし)は、大変喜ばしい。