かつてない斬新なアイデアを備えた作品も素晴らしいが、一見すると手垢がついたようにも思えるアイデアを存分に使いこなし、まだまだこんな見せ方や活かし方があるのかと気づかせてくれるような作品もまた同じくらい魅力的なものである。

 方丈貴恵『時空旅行者の砂時計』(東京創元社 1700円+税)は、まさにSFとしてはお馴染(なじ)みの「タイムトラベル」を本格ミステリに組み込み、目を見張るようなレベルにまで見事輝かせてみせた、第29回鮎川哲也賞受賞作だ。

「竜泉家」の呪いからは逃れられない――。重い病により死の淵に立つ妻――玲奈を見舞った加茂冬馬は、その事実を受け入れざるを得なかった。玲奈は大富豪として知られた竜泉家の血を引いており、この家系は1960年に別荘で起きた惨劇を機に若くして死ぬ者が続く呪われた一族だった。

 すると加茂の電話に見知らぬ着信が入る。“マイスター・ホラ”を名乗る声の主は、加茂に「竜泉家の呪いを解いてみませんか?」と驚くべき話を持ち掛ける。惨劇の真相を解き明かすことが妻を救うことに繋がるのだという。こうして加茂は“奇跡の砂時計”の力により、2018年から1960年へと時を遡(さかのぼ)る。期限は土砂崩れが別荘を呑み込むまでの四日間。加茂は限られた時間のなかで事件を解決し、現代に帰還することができるのか……。

 橋が落ちて陸の孤島と化した館、連続する殺人、見立て、残された血文字、強固なアリバイ、そして殺人者と犯行方法を問う読者への挑戦。まず、こうした謎の強度も申し分ないスタンダードな本格の描き方が真に堂に入っている。この1960年パートがしっかりと土台の役割を果たしているからこそ、「タイムトラベル」が陳腐に陥(おちい)ることなく機能し、時を超えた物語ならではの奥行きある壮大なドラマを生み出している。

 また、SF的な要素に関していうと、仕掛けに絡めた使い方に加え、もうひとつ大きな読みどころが用意されているので乞うご期待。謎解きとは別に、ある箇所で物語の隠されていた背景が明らかになった瞬間、意表を突かれる読者もいるに違いない。読後感もすこぶるよく、本格ファンに限らず、広く歓迎されることを確信させるデビュー作だ。

 もうひとつ時間SFミステリをご紹介。

 古野まほろ『時を壊した彼女 7月7日は7度ある』(講談社 2600円+税)は、2段組550ページというボリュームに圧倒されるタイムリープ+青春本格ミステリ。


 7月7日、夜。学校の屋上に集まった吹奏楽部仲間の高校生5人――慎太、一郎、英二、詩花(しいか)、光夏(みか)は、楽器を鳴らしてささやかな七夕(たなばた)まつりを始めようとする。しかしその瞬間、謎の大きな爆発が! 部長の慎太は吹き飛ばされて死亡。原因は、時間遡行型記憶転写装置――CMRをハイジャックし、未来からやって来たふたりの少女――ハルカとユリが、マシンを爆発させてしまったからだった。生き残った高校生と未来少女たちは、慎太の死を回避するべく、協力して過去の書き換えを試みる。ところが、7月7日を繰り返すたびに死者が増えてしまい、事態は思いも寄らない方向に。そして迎える7度目に待ち受けるのは……。

 試行第1回から第7回まで描かれる「7月7日」のなかには、かなりショッキングな結末もあり、予断を許さない。無数に現れるあらゆる疑問点と問題点をひとつひとつ推理し、検証していく、超高密度な構成は、まさに著者と読者のフェアな真剣勝負。物語が進むにつれて、さらに思惑と駆け引きが入り乱れ、青春本格ミステリ史上最高難度といっても過言ではない領域にまで突入する。

 ライトな青春ミステリとは対極にある、難攻不落の巨大な山のごとき物語に怯(ひる)み、早々に白旗を上げる読者もいることだろう。けれどそれゆえに、心ゆくまで謎解きを愉しみたい向きにはこれ以上ない一冊となるはずだ。ラストで示される未来を恐れない若者のまっすぐな希望に、擦(す)れた心を雪(すす)がれるような気持ちになる。