最近、現代社会における価値観の変化を意識した作品が増えたなあと思う。価値観なんていつの時代も移り変わっているものだけれど、結婚観やジェンダー観が創作作品の中で刷新されていくのが昨今の特徴。個々人が自分なりの生き方を模索するようになった今の世の中において、小説にそうしたテーマが反映されるのは当然だし、それぞれの作家がどんな切り口でどんな世界を見せてくれるのかはとても興味深い。

 昨年三島賞を受賞し注目度がますます高まっている古谷田奈月(こやたなつき)の新作『神前酔狂宴』(河出書房新社 1600円+税)は、日清・日露戦争の英雄を祀(まつ)る神社に併設された結婚式場が舞台。十八歳の浜野はその時給の高さに惹かれ、そこで式場スタッフとして派遣バイトを始める。しかし職場のルールである神社への参拝は拒否し、仕事に特別なやる気をみせるわけでもない。それが、結婚式の本質が「虚飾の限りを尽くすこと」だと気づいた時から、新郎に忠実な僕(しもべ)として尽くすことに喜びをおぼえ、式から式へと、仕える相手を替えながら仕事に快感を抱くようになる。


 三年、五年と時間が経つにつれ、浜野だけでなく先輩バイトや同世代スタッフたちも変化、派遣会社のスタッフと神社に所属する別の会館からの派遣スタッフとの覇権争いが起きたりと、式場での人間関係はまた違う様相を見せていく。結婚式という、新郎新婦にとっては人生の一大事のお祭りという茶番の裏側と、その向こう側にある国や宗教と絡めて、信仰に対する現代人の感覚もあぶりだしていく。なんとも滑稽(こっけい)だが、決して誇張されたものではなく、現代のありのままの姿なのだろうとも思わせる。

 柴崎友香『待ち遠しい』(毎日新聞出版 1600円+税)は、大阪を舞台に、世代の異なる三人の女性の交流を描く。


 三十九歳になる春子は、大家の敷地に建てられた古い小さな一軒家に住んでいる。友人も少なくはないが、趣味の消しゴムはんこに没頭するなど、一人の時間も楽しんでいる。大家の老婦人が亡くなり、母屋(おもや)に越してきたのは大家の娘、六十三歳のゆかり。夫はすでに亡くなり、彼女も一人住まいだ。裏手の一軒家も大家の所有物で、そこにはゆかりの甥(おい)とその妻、二十五歳の沙希が暮らしている。

 この女性三人のご近所づきあいが始まるわけだが、会話が噛み合うわけではない。沙希は春子が結婚せずにいることに興味を示し、「不安じゃないですか」などと不躾(ぶしつけ)なことを聞いてくる。若い頃に結婚するのが当たり前という価値観に従ったゆかりは、「いろんな生き方があっていいじゃない」と柔軟な姿勢を見せるが、それでも春子にとっては不快な、余計なお節介を焼くことも。春子の職場には身勝手で女性蔑視(べっし)的な発言を悪びれずに口にする男性社員もおり、ああ、どうしてこうも人と人とは折り合えないものなのかとむずがゆくなってくる。

 自分と異なる考え方の人間にも興味を示す春子には大らかさを感じるが、そんな彼女も、自分はすぐ人には人の事情があると思って済ませてしまうところがよくないのでは、という思いにかられる。真に相手を理解し受け入れるにはどうすればいいのか、そもそもそんなことは可能なのか、必要なのか、ふと考えさせられる。

 他にも個性あふれる人々が登場。その人間関係に揉まれるなかで、春子も周囲も少しずつ変わっていく。安易な相互理解や安易な友情育成の話にはさせず、穏やかに、ユーモラスに、人を、人生を受け入れていく過程を描いているからこそ、大きな安心と励みをこちらに与えてくれる。