古代ギリシャにタレスという哲学者がいた。ソクラテス以前の人であり、著作は残っていないが、ディオゲネス・ラエルティオスの『ギリシャ哲学者列伝』(岩波文庫)に夜空を見上げて天文観察に夢中になって、穴に落ちてしまったという。

 そばにいた女性が、学者というものは遠い星のことがわかっても自分の足元のことがわからないのかと笑ったという。空理空論を揶揄するときには、よく使われる話である。

 さて囲碁は、序盤、中盤、終盤に分けて考えられる。序盤は布石、中盤は攻防、そして終盤はヨセである。布石には定石がつきものだし、攻防やヨセには手筋が避けて通れない。

 そして詰碁は、全局を通して避けられない。どんな立派な布石が出来ても、石が死んでしまっては勝負にならない。尤も死んでいるように見えても活きている石もある。先手活き、後手活き、劫(コウ)など、死活のアヤは、勝敗に直結することが多い。また定石も手筋も死活(詰碁)の要素を必ず含んでいる。強くなるためには詰碁の勉強は欠かせない。

 本書は、詰碁の神様と言われた故前田陳爾先生の『前田初級詰碁』『前田中級詰碁』『前田上級詰碁』の改訂版である。活版印刷の衰退とともに絶版になっていたものを、詰碁の第一人者といわれる大橋拓文六段に監修をお願いし、明らかな失題を除いたり、失敗図を新たに付け加えるなどしたものである。

 ちなみに本書旧版については、趙治勲名誉名人が「この本にある問題を全て覚えたら院生に推薦する」と伝えて弟子に学ばせたという逸話が残っている。