彩坂美月『みどり町の怪人』(光文社 1700円+税)は、帯に“都市伝説×コージーミステリの野心作”という惹句(じゃっく)が躍る全七話からなる連作集だ。


 都心からさほど遠くもない穏やかな町――みどり町。しかしこの町は、二十数年前に起きた未解決事件に端を発する、若い女性と子供ばかりを狙う〈みどり町の怪人〉という都市伝説がいまも囁(ささや)かれ、地元のローカルラジオ番組でもリスナーから情報が寄せられていた……。

 こう書くと、このあと町で都市伝説をなぞるような惨劇が起こり、町民たちが疑心と狂気に駆り立てられ――といったストーリーを想起してしまうかもしれないが、予想に反して物語は、忌(い)まわしい都市伝説のある町に暮らすひとびとの人間模様を丁寧な筆致で綴(つづ)っていく。著者は青春ミステリ的な作風を持ち味にしてきたが、嫁姑(よめしゅうとめ)の間に湧き上がる不穏なイヤミスのごとき空気を温かに転じてみせるなど、本作で新たな魅力を発揮している。都市伝説の成り立ちにフォーカスしていく展開と、恐怖が襲い掛かってくる方向の意外性にも注目。

 三津田信三『魔偶(まぐう)の如き齎(もたら)すもの』(講談社 1700円+税)は、おなじみ〈刀城言耶(とうじょうげんや)〉シリーズの最新事件簿。大学を卒業して3年ばかりが過ぎた時分に言耶が遭遇した四つの怪事件が収められている。
 二重殺人事件の裏に見え隠れする、ひとに憑く服のような妖しきもの「妖服の如き切るもの」。ある村で起きた人体消失事件の真相に迫る、異形(いぎょう)の特殊設定ミステリ「巫死(ふし)の如き甦(よみがえ)るもの」。山中に現れる奇妙な家の怪異に言耶がひとつの解釈を導き出す「獣家(けものや)の如き吸うもの」。当代随一のホラーミステリ作家ならではの恐怖と推理が今回もたっぷりと味わえるが、なんといっても白眉(はくび)は四話目に用意された表題作だろう。

 所有する者に「福」と「禍(わざわい)」をもたらすという土偶の骨董――魔偶。その話を耳にした言耶は、自分を訪ねてきた女性編集者――祖父江偲(そふえしの)とともに旧家の屋敷へと赴く。するとそこには言耶たちと同様に興味を示す関係者が集い、魔偶があるという卍堂で事件が……。

 シリーズのレギュラーキャラである祖父江偲が言耶と初めて出会う記念すべきエピソードである。魔偶の謎もさることながら、注目は一度しか使えない仕掛けだ。愛読者の皆なら簡単かな? と微笑(ほほえ)む著者の顔が浮かぶようだ。