「前代未聞、必涙のラスト!!」という大仰な帯の惹句を見て、一瞬、眉をひそめかけた。ところが、どうだ。ラスト二十ページ、真相が明かされるや不覚にも目頭を熱くさせられ、帯に偽りがないことを自ら証明するはめになろうとは。


 酒本歩(あゆむ)『幻の彼女』(光文社 1500円+税)は、「島田荘司選 第11回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」受賞作。物語は、ドッグシッターの真木島風太のもとに一通の喪中はがきが届くところから幕が上がる。それは3年ほど前につき合っていた女性――美咲の死を報(しら)せるものだった。まだ32歳、亡くなるにはあまりにも早過ぎる。当時を振り返ると、ふいのモテ期が訪れていた風太は、美咲と前後して蘭とエミリ、ふたりの若い女性とも短期間つき合っていた。彼女たちの消息が気になった風太は行方を探ろうとするが、まるで幻だったかのように彼女たちの人生の痕跡が見つからない。風太と別れたあと、三人の元恋人たちにいったい何があったのか……。

 恋愛小説的な要素を含んだライトな謎解きもの――と思わせて、まさかこのような物語の貌(かお)が浮かび上がるとは思いもしなかった。21世紀ならではの最新科学を盛り込んだ本格ミステリ、いわゆる「21世紀本格」に属する作品である。島田荘司は選評で本作の仕掛けを「180年の本格ミステリーの歴史に、新たな仕掛けアイデアの一項目を書き加えるべき、斬新なものであった。それは21世紀の先端科学によって生まれ落ちた、前代未聞の方法である」と絶賛しているが、確かにこの仕掛けは前世紀には誕生し得なかったもので、本作が「サイエンス・フィクション」ではなく「本格ミステリ」として享受される時代に、いま自分が生きていることを強く意識させられた。

 先端科学や技術を用いた作品にありがちな、筋は通れど物語の肉付きや温度に乏しい印象も本作には当てはまらず、頼りなかった青年が事件を経験してひと回り大きくなる清々(すがすが)しい成長譚にもなっている。今後、本作のような先端科学知識を武器にしていくのか、それともオーソドックスな本格ミステリをものしてくれるのか、新鋭の大いなる活躍に期待したい。

「ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」関連作を、もうひとつ。

 松嶋智左『貌(かお)のない貌 梓凪子(あずさなぎこ)の捜査報告書』(講談社 1800円+税)は、第10回の同賞を受賞した『虚(うつろ)の聖域 梓凪子の調査報告書』の前日譚。元警察官の探偵である梓凪子が、まだ所轄の刑事課強行・盗犯係所属の新米刑事だった頃のエピソードだ(副題が“調査報告書”ではなく“捜査報告書”になっている)。


 なぜか中国領事館の職員が同行する「ひと捜し」を命じられた凪子は、中国人夫婦の行方を追って民泊やシェアハウスをたどり、連続刺殺事件と国家的レベルの疑惑に迫ることに。前作同様ハードで骨太のテイスト、リーダビリティの高さが光る。大沢在昌作品を想起させるグローバルな視点を備えた警察小説として読み進めていくと、次第に予想していた着地点からズレ始め、歪(いびつ)で凶悪な犯罪像が不気味に立ち上がってくる展開に唸(うな)る。黒幕の存在感が空(そら)恐ろしくなるほど凄まじく、前作における凪子の人間性が警察組織内の軋轢(あつれき)だけでなく、こうした手強い犯罪者を相手にしてきた経験も作用していることが明らかになり、本作によってシリーズとしての芯がより太くなったのは間違いない。