ミステリ作家の太田忠司先生から、みたび、ももクロの原稿を頂戴することになりました。2017年8月の有安杏果編2018年10月の百田夏菜子編に続くエッセイ第三弾、今回の主役は「あーりん」こと佐々木彩夏。去る6月23日におこなわれた、ソロコンサート「AYAKA NATION 2019」を観て書かれたエッセイ、どうぞご一読ください。(編集部M)



「佐々木彩夏の『圧』が制覇する」
太田忠司   


 それは歴史的瞬間だった。
 2019年6月23日、横浜アリーナにおいて「AYAKA NATION 2019 in Yokohama Arena」が開催された。その名のとおり、佐々木彩夏【註1】によるソロコンサートである。最初に行われたのは2016年。それから毎年行われており、今回が四回目だった。
 四回目なのになぜ今回が「歴史的瞬間」といえるのか。それは、これまでとは違った光景を目にすることになったからだ。
 今回のソロコンでは同日の早い時間から、同じ横浜アリーナ内の別会場において27組141名のアイドルによるフリーライブ「Yokohama A-rin Collection」も開催された。
 ももクロ【註2】の大規模コンサートでは開催まで別のスペースで芸人やアイドルのライブが行われることが数年前から恒例となっている。開演までの時間をファンに楽しんでもらうためのイベントだが、今回のそれは趣が異なっていた。


 この動画で佐々木彩夏自身が語っているように、前座というよりは彼女が主催するアイドルフェスという位置づけのイベントだったのだ。僕も少し覗いてみたのだが、アイドルグループが次々と出場する対バン形式のライブだった。
「対バン」というのは複数のバンドやアイドルが参加することで集客を増やすことを目的としたライブだが、今回はそれぞれのファンだけでなく、ソロコンに来たプニノフ(佐々木彩夏のファン)たちに他のアイドルのパフォーマンスを観る機会を用意したのだった。
 これはある意味、危険な行為でもある。アイドルのファンというのは結構移り気で、新しい対象を見つけるとそちらに流れてしまうことも多い。もともと未熟な新人の成長を見守ることがアイドルを応援する醍醐味のひとつでもある。だからももクロのようにメジャーとなった存在からマイナーなアイドルへと乗り換えることも少なくない。つまりこれは佐々木彩夏自身が自分のファンを減らす危険を侵していることになるのだ。しかも今回出演するのは彼女が所属している芸能事務所のアイドルでさえない。利点はあまり、いや、ほとんどないイベントだろう。なぜそんなことを、わざわざ行ったのか。
 これを王者の余裕と見ることも可能だ。でも多分、アイドル好きな彼女が「アイドルちゃんをいっぱい集めてライブやったら楽しいでしょ」くらいのノリで実行したのではないかと思う。
 だとしても、これは相当にインパクトのあることだ。
 たとえば、このイベントに参加したアイドルグループ「星座百景」【註3】のリーダー上川湖遥(かみかわ・こはる)がライブ開始前にファンに送ったメッセージ動画がグループの公式YouTubeチャンネルにアップされているのだが、



 ももクロという存在の大きさと、そのももクロを目指して頑張っていくという決意が、ここで語られている。
(ちなみに動画でもわかるとおり上川湖遥は膝を手術していて、当日はこのメッセージを送るためだけに出演したそうだ)。
 他のアイドルたちも、このチャンスに自分たちの存在を多くのひとに知らしめ、ファンを増やそうと懸命になっていたことだろう。
 そしてソロコン本番。アメフラっシ【註4】とDAN→JYO【註5】、CROWN POP【註6】という同じ事務所の若手をオープニングアクトとして登場させた後、いよいよ佐々木彩夏の登場となる。このコンサートの感想を一言でいえば「圧巻」であった。演出や構成も主導している彼女の過去三回のソロコンで経験を積んだ上でのパフォーマンスは極上という他はなく、12872人の観客すべてを見事なまでに掌上に運(めぐ)らしていた。
 そして「歴史的瞬間」が訪れる。アンコールのラスト、佐々木彩夏の最初のソロ曲であり、会場が最も盛り上がるキラーチューン「だって あーりんなんだもーん☆」【註7】が始まると、「Yokohama A-rin Collection」に出場したアイドルたちが一斉に登場し、佐々木彩夏と共に踊りはじめたのだ。
 これまでも彼女は事務所の後輩アイドルをパフォーマーとしてコンサートに起用している。今回もオープニングアクトの3グループと一緒に、ステージを構成していた。しかしこのラストだけは所属事務所も出自も違うアイドルたちが花道に立ち、佐々木彩夏と同じ振り付けで踊った。
 この光景を見て僕は、歴史が動いたと感じたのだ。佐々木彩夏が遂に、遂に動き出したと。

 佐々木彩夏を評するとき、メンバーやスタッフ、ファンが一番多く口にする言葉は「圧」だろう。
「あーりんは圧がすごい」というように使われる。
 この「圧」とは何だろう。
 普通は「主張が強い」という意味合いで使われる。佐々木彩夏の場合、ライブで自分を主張する場面が他のメンバーより多く、カメラで撮影されているときも前面に乗り出して多く映ろうとする。また他のメンバーへの主張も強いようで、自身はインスタグラムをしていないのに他のメンバーのインスタによく登場したり、事あるごとに自分のかわいさを強調することも多い。
 そういう「わたしが! わたしが!」という性格の人間は大抵、煙たがられたり嫌われることが多い。特に女性の場合、同性の支持はなかなか得られないだろう。
 しかし不思議なことに、佐々木彩夏はどれだけ「圧」があっても、それで嫌われることはないのだ。それどころか、むしろ魅力として受け取られている部分もある。
 実際コンサート会場へ行くとピンクの衣装を身につけた佐々木彩夏ファンの女性をたくさん見かける。彼女が過去のコンサートで身につけた衣装のコスプレをしている女性もいた。
 なぜ佐々木彩夏は同性に支持されるのか。その疑問も今回のソロコンを観て晴れた。彼女へ声援を送っている女性ファン、彼女と同じ舞台に立つことに歓喜している女性アイドル。
 そう、女性だ。佐々木彩夏の「圧」は常に女性に向けられている。

 これはももクロのメンバー全員に言えることなのだが、彼女たちには男性への媚びは一切ない。もちろん男性のファンも大切にし、楽しませようとしているが、疑似恋愛的な仕種は皆無なのだ。それが多分ももクロと他のアイドルグループとの大きな差異だろう。その中でも佐々木彩夏は同性に強い圧をかけることで魅力を発揮する稀有な存在なのだ。

 これもいろいろな人間が証言していることだが、佐々木彩夏はメンバーの中では最も男前な性格をしている(ここでいう「男前」というのは「さばさばしている」といった意味で、ジェンダー的にはどうかなと思わないでもない表現なのだが)。
 さらにメンバー最年少ながら立派にトークを回してみせたり、テレビカメラの位置を常に把握した上でパフォーマンスをしたりといった仕事ぶりから「佐々木プロ」と称されている。
 象徴的なのが「Quick Japan vol.119 Side-S」【註8】でのインタビューだ。佐々木彩夏は自分のことを「『ももクロのアイドル』とか言っているけど、結局はアイドルからいちばん遠いところにいる」と言い、その理由として「『支えてあげたい』とか『見守ってあげたい』って気持ちにあんまりさせないんじゃないかなって、私。なにかあっても『あーりんだったら、なんとかするだろう』みたいな安心感があるっていうか」と自己分析している。
 こうした自立した性格や仕事する上での信頼感は、彼女の場合アイドルとしての瑕疵(かし)にはならない。むしろ強力な武器だ。ビジュアル面でアイドルとしての自分の見せかたを充分に心得た上で、ただのアイドルではなく「ももクロのアイドル」としての存在感が多くの女性ファンを惹きつける(もちろん男性ファンも)。
 そして女性アイドルの中には彼女に憧れ、彼女のようになりたいと願う者もいる。佐々木彩夏とは、アイドルにとってもアイコンなのだ。
 事実、彼女は2016年からアイドルイベント「TOKYO IDOL FESTIVAL」【註9】にソロで連続出場し、全国のアイドルが国民的アニメソングをカバーするコンテスト「愛踊祭2019」【註10】ではアンバサダーとして課題曲を模範披露している。今やアイドルにとって主導的なステイタスにあるわけだ。
 だからこそ、自分のコンサートで女性アイドルたちを同じ舞台に出したことの意義は大きい。彼女の視線がももクロや事務所の垣根を超えてアイドル界全体に向けられたことの証左だからだ。
 今後、佐々木彩夏がどこまでその視野を広げるのか、どこまで行動範囲を広げるのか、わからない。だが僕は夢想する。ももクロのメンバーの中で最も明確に外部へのアプローチを意識しているであろう彼女がアイドル界に覇を唱え、多くの心酔者を得てその版図(はんと)を広げていくことを。
 そのときこそ、神聖あーりん帝国の成立である。

(あ、こんなに熱く語ってますけど、僕はももクロでは玉井詩織【註11】推しなんで)



【註釈】※文責:東京創元社編集部M

【註1】佐々木彩夏:ささき・あやか。1996年生まれ。2008年11月にももクロへ加入。メンバーカラーはピンク。愛称は「あーりん」「あーちゃん」。ファンから「佐々木プロ」と称されるほどアイドル活動に対する意識が高く、アイドルとしての圧も強い。近年はライブ演出や曲選びにも積極的で、その結晶ともいえるのが2016年から毎年開催されているソロコンサートで、本稿の主題の「AYAKA NATION(アヤカネーション)」である。
【註2】ももクロ:4人組女性アイドルグループ・ももいろクローバーZ(ゼット)の通称。2008年「ももいろクローバー」として結成、2010年メジャーデビュー。2012年に紅白歌合戦初出場、2014年には女性グループ初となる国立競技場でのライブを実現するなど、数々の記録と記憶に残る活動をしてきた。2019年は4月に富山県黒部市で地方都市誘致型の野外ライブ「ももクロ春の一大事2019」2daysを成功させ、結成記念日の5月17日に5枚目のオリジナルフルアルバム『MOMOIRO CLOVER Z』をリリース、各種ランキングで一位を獲得。8月には恒例の大箱ライブ「MomocloMania2019」2daysを埼玉・メットライフドームで開催、さらに佐々木彩夏が座長を務める初の時代劇舞台「ももクロ一座特別公演」を東京・明治座で上演する。
【註3】星座百景:せいざひゃっけい。2016年結成のアイドルグループ。黄道十二宮の12星座がモチーフ。運営スタッフやメンバーに熱烈なモノノフ(ももクロファン)が多いことでも有名で、本文で触れられたリーダーの上川湖遥もそのひとり。
【註4】アメフラっシ:あめふらっし。ももクロと同じ芸能事務所スターダストプロモーションのアイドル部門・スターダストプラネットの一員であるアイドルグループ。2018年に解散した3B Junior(スリービー・ジュニア)メンバーのうち、アイドル活動の継続を希望した5名で結成される。その経緯上、ももクロや3B Junior楽曲のカバーも歌う。
【註5】DAN→JYO:だんじょ。2018年結成。スターダストプロモーション初となる男女混合ダンス&ボーカルグループ。現在のメンバーは10人。「AYAKA NATION 2019」本編ではそのうち女性メンバー5人がバックダンサーを務めた。グループ名の矢印記号は正確には上が右向き、下が左向きの矢印ふたつ(⇄)。
【註6】CROWN POP:くらうん・ぽっぷ。2015年結成。アメフラっシ同様スターダストプラネットの一員である6人組のアイドルグループ。ももクロほかが所属する芸能三部ではなく、芸能二部のレッスンユニットだったため当初はあまり他グループとのからみがなかったが、2018年のスターダストプラネット発足以降は交流が増えている。7月に3rdシングル「サマータイムルール」を発売。
【註7】「だって あーりんなんだもーん☆」:佐々木彩夏のソロ曲。通称「だてあり」。作詞・作曲・編曲はヒャダインこと前山田健一。2011年3月、中野サンプラザで開催された「ももクロ春の一大事」第一部「ももクロ☆オールスターズ2011」での初披露以来、あーりん推しのみならず全モノノフから高い人気を誇る。
【註8】Quick Japan:くいっく・じゃぱん。太田出版より発行されている雑誌。隔月刊。活動初期からももクロに着目していたメディアのひとつで、2011年に初めて表紙&巻頭特集に起用して以降、何回も特集を組んでいる。2015年4月発売のvol.119は同誌史上初の二号同時刊行(side-S、side-A)で、ともに表紙&巻頭特集を佐々木彩夏が個人で飾った。
【註9】TOKYO IDOL FESTIVAL:とうきょう・あいどる・ふぇすてぃばる。通称TIF。2010年から毎年真夏に開催されている日本、そして世界最大のアイドルフェス。ももクロとしての出演は初回の2010年のみだが、そのときのパフォーマンス、特に「走れ!」はいまも語り草となっている。2019年は8月2日から4日の三日間開催で、佐々木彩夏は初日の2日に出演する。
【註10】愛踊祭:あいどるまつり。正式名称は「愛踊祭~国民的アニメソングカバーコンテスト~」。その名のとおり毎回アニメソングが課題曲となるのが特徴。毎年4月から日本各地のエリアで予選がおこなわれ、9月に東京で決勝がおこなわれる。佐々木彩夏のアンバサダー就任は2017年以来2回目。
【註11】玉井詩織:たまい・しおり。1995年生まれ。ももクロ結成時からのオリジナルメンバー。メンバーカラーは黄色。楽器演奏やトーク司会なども見事にこなすオールラウンダーにして、加山雄三じきじきにお墨つきをもらった「ももクロの若大将」。



ミステリなふたり あなたにお茶と音楽を

太田忠司(おおた・ただし) 1959年愛知県生まれ。名古屋工業大学卒業。81年、「帰郷」が「星新一ショートショート・コンテスト」で優秀作に選ばれる。『僕の殺人』に始まる〈殺人三部作〉などで新本格の旗手として活躍。2004年発表の『黄金蝶ひとり』で第21回うつのみやこども賞受賞。〈少年探偵・狩野俊介〉〈探偵・藤森涼子〉〈ミステリなふたり〉など多くのシリーズ作品のほか、『奇談蒐集家』『星町の物語』『名古屋駅西 喫茶ユトリロ』など多数の著作がある。 東京創元社での最新作は『ミステリなふたり あなたにお茶と音楽を』