今年で、東京創元社の文庫レーベル「創元推理文庫」は創刊60周年を迎えました。それを記念して、小社からデビューされた大崎梢先生より、特別エッセイをご寄稿いただきました。


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 東京創元社ってずいぶん柔軟性に富んだ会社だな、というのがじっさいに関わるようになったときの私の第一印象です。何しろ、ミステリ関係の賞にまだ応募さえしたことのない私の原稿を、当時すでに退職されていた元編集者(にして元社長)の戸川安宣さんが読み、会社の企画会議にかけると言い出したのが2005年の九月。三ヶ月後の十二月に出版化が決まり、翌年の五月に本になりました。なんという早さ。

 戸川さんに限らず、ミステリ好きの書き手を見つけては、ジャンルを超えて声をかけにいく編集者がいて、ユニークなラインナップは今なお健在です。

 それもこれも、新しい試み、挑戦的なことに対する許容範囲が広いというか、ノリがいいというか。若竹七海さんの経験談が発端となった『競作五十円玉二十枚の謎』なども、提示された同じ謎に挑むというアイディアに、企画会議は大いに盛り上がったことでしょう。プロ作家だけでなく、一般公募まで行われ、プロアマ合わせて十三人の『解答編』が収録されました。そのアマチュアの中からプロ作家が誕生するという後日談も、東京創元社ならではという気がします。
 新しもん好き、挑戦大好きは作家にも受け継がれ、2014年には青崎有吾さんが『風ヶ丘五十円玉祭りの謎』を上梓し、2017年に創元推理文庫に入りました。どうしても参戦してみたかったのですね。青崎さんがデビューする少し前、新人作家ばかりを集めた学園ミステリ・アンソロジー『放課後探偵団』も、意欲的な試みでとても楽しかったです。2010年の発売なので、かれこれ九年前。みんなもう中堅と言われるキャリアに。そんな足跡をたどれるのも本の面白さです。 
 これからも柔軟性に富んだユニークな挑戦が続き、本という形になって 、色あせることなく手元に残ってくれることを期待しています。

大崎梢 (オオサキコズエ )
東京都生まれ。神奈川県在住。2006年5月、連作短編集『配達あかずきん』でデビュー。元書店員ならではの目線と、優しい語り口、爽やかな読後感で注目を浴びる。著作に、『配達あかずきん』『晩夏に捧ぐ』『サイン会はいかが?』の〈成風堂書店シリーズ〉、『片耳うさぎ』『平台がおまちかね』『夏のくじら』『クローバー・レイン』、『忘れ物が届きます』『本バスめぐりん。』などがある。