と、かように素晴らしい韓国勢を正面から迎え撃ったのが、スウェーデンの作家ホーカン・ネッセルの短篇集『悪意』(久山葉子訳 東京創元社 2600円+税)である。収録5篇いずれも、書名通りの悪意――原題Intrigoはイタリア語で、陰謀、秘計、悪巧みなどの意――によって引き起こされる事態を扱っている。いずれの作品でも、登場人物の人生や感受性をじっくり掘り下げており、落ち着いた、辺りを払うかのような重みのある文体と表現が、物語にシックな色合いを添える。しかも必ず、途中で意外な展開を見せる。


 各篇を見ていこう。第1篇の「トム」では、ある女性のもとに、20年以上前に失踪した息子(正確には夫の連れ子)を名乗る男から電話がかかってくる。登場人物の隠し事のつるべ打ちが見事に決まるが、先述の落ち着いた文体が、悪い意味でのケレン味を一切感じさせない。人生における欺瞞(ぎまん)について考えさせられる一篇。

 続く「レイン ある作家の死」は、作家の遺稿を訳す翻訳家が、意外な事実に気付く物語。犯罪計画には若干無理のある一篇だが、ここに翻訳家が失踪した妻を探すストーリーを組み合わせることで、ミステリとしては軽めのプロットを、重厚な中篇に無理なく昇華させている。

「親愛なるアグネスへ」は、久々に再会し文通を始めた二人の女性の往復書簡が物語の半分を占め、残りはある(「ある」傍点のため、太字に)計画の進展と、過去のエピソード想起によって成る。短篇集中では先の展開が一番読みやすいが、語り口の上手(うま)さ(上品な中にも、登場人物の性格の醜悪さがふと薫る)で不満を感じさせない。幕切れも邪(よこしま)ながら洒落(しゃれ)ている。

「サマリアのタンポポ」では、中年の男性主人公に、30年前に死んだはずの人物――当時焦がれた女性から手紙が届く。この手紙の出所を探る物語であり、最後には昔の事件の真相が明かされる。ミステリ的にはしっかりまとまっているが、それ以上に、過ぎ去った青春の甘酸っぱさがいっぱいに詰まっていて、中年以上の読者の胸には染み入るはずだ。

 最後の「その件についてのすべての情報」は、何とも言えない不気味さが漂う終盤が強烈。わずか十ページなので、実際に読んだ方が早く、粗筋は紹介しません。

 以上5篇、読者にサプライズを与えるべく仕掛けをしっかり施している。ただそれだけに終わらず、数奇な人生や運命の持つ味わいをじっくり引き出している。深沈とした呼吸感のある文体も、訳文含めて素晴らしい。おススメです。