対局を続けていると、身体が固まってくる。形勢が悪いという訳ではなくとも、座り続けていれば、肩もこってくる。何も囲碁を打つ人に限らないが肩こりや腰痛の持病のある人は多いだろう。ストレッチで緩和している人、医者でシップを処方してもらったり、注射してもらったりで対応している人、そして鍼灸師とか整体師などのお世話になっている人も少なくない。鍼灸師や整体師は西洋医学とは別の分野で東洋医学とも言う。健康保険が使いづらいのが難点だが、特段の効果があるように思えるのは、小生だけの考えだろうか。鍼灸師について言えば、これは国家資格で、取得するのはかなり難しい。

 東洋医学は、経絡(けいらく)を基礎としている。経絡とは古代中国で代謝物質の通り道として考え出されたものであり、その要所が経穴(ツボ)である。ツボに鍼を打ってもらったり、またマッサージをしてもらうと、肩こりや腰痛のみならず、胃痛その他の痛いところに良い効果が出ることがある。胃が痛いとき、足を刺激すると治ることがある。ツボとは不思議なものだ。

 囲碁では、取れたと思った石に逃げられたり、活きていると思っていた石が死んでしまったりして、相手との棋力の差を感じることがある。それは大概「手筋」の力の差のように思える。混みあった状態の石の中で、何か必然の一手を発見する。その「手筋」には、石を取る手、活きる手、連絡を図る手、攻め合いに勝つ手、形を整える手、相手の地を削減する手、先手を取る手などがある。ワリコミ、ツケコシ、キリ、サガリ、ステイシ、オイオトシ、シボリ等々の様々な手段がある。そこに施術すれば痛みとかが緩和するツボを見つける達人の技に似ているところがある。

 しかしながら一手を発見して、それで勝負あったという訳にはいかない。その一手を意図したように完成するには、およそ10手くらいの読みが必要になる。そこまでを含めて「手筋」というのであって、ツボを一度刺激しただけで肩こりが治ったとは言えないのと同じだろう。
プロ同士の対局では、お互いを自分の読みの世界に引き込もうとする。相手の意図の上をいくような一手を常に考えている。それでも勝つ人と負ける人が出来る。多数のタイトルを持つ井山棋聖は、相手を自分の筋に乗せてしまうのが上手だ。観ていると、そうなってしまうような筋を作っているように感じるときがある。

 ともあれ対局中に時間をかけても「手筋」の一手は発見できるとは限らない。またその次の手を読むのも難しい。本書のような問題を数多く解くことで直感が養われる。そしてよく読むことも肝要である。棋力の差とは、結局のところ直感と読みの力であろう。強くなるために、そして囲碁が楽しくなるためにも「手筋」の研究は欠かせない。