亀珈王国(かめのかみかざりおうこく)は、幽冥(ゆうめい)、とも呼ばれる。
 死者の国、という意味だ。
 この王国では、死霊術と呼ばれる呪術が栄えていた。
 古くは死者を死者の国に送るだけの葬送術をさしたが、死肉を操る送尸術(そうしじゅつ)。死霊と対話する降霊術。幽鬼――悪鬼悪霊と化した死者を祓い清める退魔術などに枝分かれをした。なかでも力の強い死霊術士は、死者を完全に蘇らせる蘇生術をも可能とした。
 王国の民は、心に絶対の神をもたない。人が死後、神の国に向かうのではなく、神を持たない世界、幽世(かくりよ)に旅立つと考える。
 幽世にある――新たな住処の名を、忘却城という。
 忘却城に、主はいない。神や王もない。
 王国仙書によれば、常に空の玉座だけがあるという。
 死者の魂魄(こんぱく)は、王国の国土とおなじほど巨大なその城を第二の我が家とし、心おだやかに眠るという。

 亀珈王国の死霊術士の頂点に君臨するのが、名付け師。当代の名付け師・縫は百の御子と呼ばれる、優れた死霊術の才をもつ養子たちと、霊昇山に居をかまえていた。
 その霊昇山に、剥州に大鬼覚醒の動きあり、との報告がもたらされる。
 大鬼といえば、金輪際退魔不可能といわれる悪鬼。王家からは退魔の軍を出すように要請されるが、たとえ名付け師といえど大鬼を退魔することは敵わず、封じるのさえ命がけだ。どう対処するかで議論を重ねる御子たち。
 そのなかで名付け師の代理として大鬼退治に名乗りを挙げたのが、81番目の御子千魘神。病弱で長くは生きられないだろうと言われながら、卓越した死霊術の才をもつ彼は、ある秘策をもって大鬼に向かおうとしていた。

 前作『忘却城』を読まれた方は、「あれ? 続きじゃないの?」と思われるかもしれませんが、ご安心ください、物語は前作の2ヶ月後から始まります。前作で登場したあの人物や、この人物も引き続き活躍し、読者の皆様を魅了したあの世界観は健在、さらに奥行きと広がりを増しています。
『忘却城』をまだ読んでいらっしゃらない幸運な皆様、この『忘却城 鬼帝女の涙』からお読みいただくこともできますが、是非、中華風バロックとも言うべき、〈忘却城〉のめくるめく華麗な世界を旅してみてください。
 物語世界に引き込まれ、外に出たくなくなること請けあいです。