第22回日本ホラー小説大賞〈大賞〉に輝いたデビュー作『ぼぎわんが、来る』が、昨年(2018年)中島哲也監督作品『来る』として映画化され、話題となった澤村伊智。〈比嘉(ひが)姉妹〉シリーズをはじめ、上質なホラー小説を続々と放つ俊英の新作『予言の島』(KADOKAWA 1600円+税)は、著者初となる長編ミステリ。しかも期せずして『魔眼の匣の殺人』と同じく“予言”を扱っているから興味深い。


 幼馴染(おさななじみ)である岬春夫の提案で、瀬戸内海の孤島――霧久井(むくい)島へと向かった天宮淳たち一行は、ひとりの女性から「やめたほうがええですよ」「えらいことが起こりますから」と忠告を受ける。じつは、この島は90年代後半に、当時一世を風靡(ふうび)した霊能者――宇津木幽子(うづきゆうこ)がロケで訪れ、20年後に「霊魂6つが冥府へ堕(お)つる」、つまり“6人が死ぬ”と生涯最後の予言を遺(のこ)した忌まわしき場所だった。
 
 半信半疑の淳たちだったが、島へ到着してみると、先ほどの女性の忠告を裏づけるように、予約していた旅館から、じきに山の怨霊が降りてくるからという不可解な理由で宿泊を断られてしまう。山の怨霊とは、いったいなにか。本当に惨劇は起こるのか。結局、島のお守りだという奇妙な黒い置物“くろむし”がいくつも飾られた民宿で夜を明かした淳たちだったが、翌朝、春夫の骸(むくろ)が海に浮かび……。

 プロローグとエピローグに横溝正史『獄門島』の文章が掲げられているとおり、本作はいまなお因習の残る孤島で巻き起こる連続殺人の謎を追う澤村伊智版『獄門島』といった趣の物語だ。ところが本作最大の読みどころは、霊能者が遺した予言の真偽、ときどき山から降りてくる怨霊の正体、惨劇を引き起こした犯人は誰か――といった謎の解明とはまた別にある。

 終盤で、作中一番のサプライズがまったく予想していなかった方向から飛び出し、「うわ、怖っ!」と盛大に仰(の)け反(ぞ)ってしまった。まさか怖気(おぞけ)が走るこのような奥の手を考えていたとは――と呆然とするとともに、この一撃のために仕掛けられた大胆極まりない企(たくら)みには素直に白旗を上げるしかない。加えて「言葉の力」が重要なテーマにもなっており、単なる懐古趣味を狙ったホラーミステリではない今日(こんにち)的な内容に著者のセンスが光る。

 孤島が舞台といえば、古野まほろ『終末少女 AXIA girls』(光文社 2400円+税)も忘れがたい。


 まるで天国のような孤島にある、二階建ての木造校舎を仮の住まいとする七人の少女たち。彼女たちはどこからかこの島に流れ着いた漂流者だった。海の向こうでは“漆黒の沼”が世界を呑み込み、無数の“口”がすべてを喰い尽していて、世界は終わりを迎えようとしていた。海の彼方(かなた)、黒い水平線にも“口”が見え、いよいよ終末が近づくなか、セーラー服姿の八人目の少女――未奈がビーチに流れ着く。だが、この謎めいた少女の登場により、凄惨な殺し合いと犯人探しの幕が上がってしまう……。

 500ページ近いボリュームのなかに余分と感じられる箇所は一切なく、すべてが伏線といっても過言ではない恐ろしく手の込んだ造りに圧倒される。少女たちがひたすらに繰り広げる微(び)に入(い)り細(さい)を穿(うが)つような考察と推理も濃密で、読者もまた一字一句読み飛ばせない精読でこれらをじりじりと追い掛けることになる。

 ラスト100ページにわたって描かれる解決篇の前に「読者への挑戦状」が用意されているのだが、これを書いてしまっても全体の興を削ぐことにはならないと思うので書いてしまうと、まずそこに至るまでに本作の特殊な設定を見抜けるかが最初の勝負の分かれ目だ(読み返してみると、序盤の段階であんなにもあからさまに答えが示されていたとは!)。本作の試みは、ある名作中の名作の趣向を執拗(しつよう)なまでにこれでもかと突き詰めたもので、少女たちにまぎれている“悪魔”を正しく指摘することは極めて困難だ。特殊設定を活かした歯応えのあるフーダニットをお求めの猛者(もさ)にはうってつけの難題といえる。

 とはいえ本作は、その鉄壁ぶりで読み手を捻(ね)じ伏せることばかりを狙った意地の悪い物語ではない。著者と読者のフェアな真剣勝負こそが本格ミステリで貫かれるべき至上命題であることは、これまでの古野作品でも繰り返し示されてきた。本作もまた途轍(とてつ)もなく複雑に謎が組み合わされているものの、重要なヒントや推理の材料は律儀なまでに読者の前に提出されている。たとえ歯が立たなくても、その徹底した誠実さを確認するだけでも存分に愉(たの)しむことができるはずだ。そして美しくも物悲しいラストにも注目あれ。